訪問看護ステーションの開業・独立・立ち上げのポイントとは?
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株式会社エス・エム・エス カイポケ訪問看護マガジン編集部
看護師や介護事業所の運営経験者、訪問看護の請求ソフトや電子カルテの導入支援経験者など、医療や介護、訪問看護の現場理解が深いメンバーが在籍。訪問看護ステーションの開業、経営、日々の看護業務に役立つ情報を発信します。
目次
高齢化が進む日本では、地域包括ケアシステムの構築に伴い、訪問看護ステーションのニーズが増え、訪問看護ステーションの開業・立ち上げの件数も増加しています。
地域包括ケアシステムとは、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」であり、『訪問看護』は、地域包括システムの中で医療(医療保険)と介護(介護保険)におけるサービスを提供する機関として、とても重要な役割を担っています。
このような背景から、訪問看護ステーションの開業・開設・立ち上げを考えている皆様は、「訪問看護ステーションを開業・開設するまでの流れが知りたい」、「開業準備ではどんなことに注意すればいいの?」といったことが気になっているのではないでしょうか?
この記事では、訪問看護の開業・独立・立ち上げの流れ、開業における資金の内容や資金調達、適切に報酬を請求するために遵守する基準、開業するときの注意点などをまとめていますので、ぜひ最後までお読みください。
訪問看護とは?
訪問看護とは、利用者が住み慣れた自宅等で自立した日常生活を送れるように、看護師等が利用者の自宅等を訪問し、療養上の世話や診療の補助を提供するサービスです。利用者の状態に合わせて、訪問した看護師等が、食事、排泄、清潔の管理・援助、ターミナルケア、褥瘡の処置、カテーテル管理、訪問看護の一環として行われるリハビリテーション、家族支援などを行います。
訪問看護は、疾病・負傷等により療養が必要な方を対象としているので、年齢制限はありませんが、利用者の年齢や介護認定の有無などによって訪問看護費を請求する先が異なるので、通常、介護保険に係る指定と医療保険に係る指定を受けて、事業所を運営しています。
医療法人や社会福祉法人、NPO法人、株式会社、有限会社など、様々な法人で開設することができ、事業所数は年々増加している状況です。(下図参照)
これは、訪問看護が設備投資等の負担が少ないことから他の介護施設・事業所と比較して「開設しやすいこと」も影響しています。
訪問看護の事業所数の推移

※厚生労働省 介護サービス施設・事業所調査
訪問看護を開業・独立・立ち上げるまでの流れ
訪問看護ステーションを開業・独立・立ち上げるまでのおおよその流れは以下のようになっていますので、詳しく見ていきましょう。
①法人を設立する
法人を設立するためには、法務局にて商業・法人登記申請を行います。訪問看護の事業を行うには、所轄官庁から介護保険と医療保険の『指定』を受けなくてはいけません。この『指定』を受けるためには、法人格が必要になります。
医療法人や社会福祉法人、NPO法人といった法人格でも訪問看護を運営できますが、新規に法人格を取得する方は、『株式会社』や『合同会社』を選ぶことが多いようです。
②事務所(不動産)を契約する
訪問看護の事務等を行う場所として、事務所を契約します。
※個人で事務所を契約してから、その住所で法人を設立するケース(②→①になるケース)もあります。
訪問看護を開設するには、主たる事務所が必要になります。介護保険法の設備に関する基準には、事務所の広さは定められていませんが、以下の要件を満たすことが求められています。
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事業の運営を行うために必要な広さがあること
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利用申込の受付、相談等に対応するのに適切なスペースがあること
③従業員を採用する
訪問看護の従業員として働く保健師、看護師、または准看護師を雇用します。
※ここでは、介護保険の訪問看護ステーションを例に説明します。
訪問看護ステーションでは、人員に関する基準に、「保健師、看護師または准看護師を常勤換算方法で2.5人以上配置すること」が定められています。そのため、事業所の指定申請までに少なくとも3人以上(ご自身が看護師として働く場合には2人以上)を採用しなくてはいけません。
④事務所の設備・備品を準備する
事務所に必要な設備・備品を調達します。 一般的には、開設とその後の運営において、以下のような設備・備品が必要になります。
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相談用の応接セット
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事務机
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事務椅子
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パソコン・タブレット
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プリンター・コピー機
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電話・FAX設備
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書棚・書庫
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ロッカー
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文具等の事務消耗品
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感染対策用品
⑤指定申請を行う
都道府県等へ以下のような申請書及び添付書類を提出します。 都道府県等によって指定申請を行う期限が異なりますので、開業までのスケジュールを把握するためにも早めに確認しておきましょう。
書類の不備や提出期限に間に合わないなどの理由から開設予定日に開設できず、開設日を変更しなくてはいけなくなることもあります。
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指定居宅サービス事業所・指定介護予防サービス事業所指定申請書
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訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定にかかわる記載事項
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登記簿謄本
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従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
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就業規則の写し
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資格証の写し
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雇用契約書の写し
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事業所の平面図
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事業所の外観及び内部の様子がわかる写真
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運営規程
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苦情対応の体制がわかる書類
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衛生管理体制がわかる書類
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誓約書
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介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
⑥請求ソフト・電子カルテを決める
事業所の開設後、実際に業務を行う上で必要となる請求ソフト・電子カルテ等のシステムを決めます。
請求ソフト・電子カルテの選び方については、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
⑦賠償責任保険に加入する
開設してサービスの提供が始まる前に、「賠償責任保険」への加入をおすすめします。
訪問看護ステーションの業務では、利用者にケガを負わせてしまうことや利用者宅の物品等を破損させてしまうことなどが起こり得ます。そのような事故に備えて、損害保険に加入しましょう。
⑧指定を受け、事業を開始する
無事に指定を受けることができると「指定通知書」が届きますので、その後、事業を開始することになります。
訪問看護事業所の開設に係る基準(介護保険)とは?
訪問看護の人員基準
種別 | 職種 | 配置人数 |
訪問看護ステーション | 管理者(保健師・看護師) | 常勤1人以上(他の職務と兼務可) |
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保健師・看護師・准看護師 | 常勤換算方法で2.5人以上(うち常勤1人以上) | |
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | 実情に合わせた適当数(配置がなくても可) | |
病院・診療所 | 保健師・看護師・准看護師 | 適当数 |
訪問看護の設備基準
種別 | 設備等 |
訪問看護ステーション(単独) | 専用の事務室 利用申込の受付、相談等に対応するのに適切なスペース 訪問看護に必要な設備・備品 |
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訪問看護ステーション(併設) | 専用の区画(区画の特定でも可) 利用申込の受付、相談等に対応するのに適切なスペース 訪問看護に必要な設備・備品 |
病院・診療所 | 専用の区画(区画の特定でも可) 訪問看護に必要な設備・備品(医療機関との共用が可) |
訪問看護の運営基準
訪問看護の運営基準には、以下のような項目があります。
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内容及び手続の説明及び同意
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提供拒否の禁止
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サービス提供困難時の対応
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受給資格等の確認
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要介護認定の申請に係る援助
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心身の状況等の把握
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居宅介護支援事業者等との連携
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法定代理受領サービスの提供を受けるための援助
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居宅介護サービス計画に沿ったサービスの提供
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居宅サービス計画等の変更の援助
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身分を証する書類の携行
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サービスの提供の記録
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利用料の受領
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保険給付の請求のための証明書の交付
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指定訪問看護の基本取扱方針
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指定訪問看護の具体的取扱方針
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主治の医師との関係
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訪問看護計画書及び訪問看護報告書の作成
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同居家族に対する訪問看護の禁止
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利用者に関する市町村への通知
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緊急時の対応
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管理者の責務
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運営規程
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勤務体制の確保等
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業務継続計画の策定等(令和3年度から追加、令和6年3月31日まで努力義務)
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衛生管理等
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掲示
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秘密保持
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広告
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居宅介護支援事業者に対する利益供与の禁止
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苦情処理
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地域との連携
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事故発生時の対応
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虐待の防止
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会計の区分
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記録の整備
訪問看護の開業資金の目安はおおよそ500万円~1,000万円
訪問看護の開業資金の内訳① 法人設立費用
法人の設立は法務局で登記しますが、その際、登記に関わる費用として、登録免許税、定款の認証費用、印紙代などがかかります。費用の目安は以下のようになっています。
法人種別 | 費用の目安 |
株式会社 | 約25万円 |
合同会社 | 約10万円 |
訪問看護の開業資金の内訳② 不動産の契約料等
訪問看護の事務所を構える際、不動産の契約に関わる契約料、敷金、礼金、保証金に加え、前払いの賃貸料・管理費などを支払う必要があります。 費用の目安として、賃貸料が月10万円の物件で、初期費用は約50万円〜70万円がかかるでしょう。
訪問看護の開業資金の内訳③ 設備・備品・消耗品
「訪問看護を開業・立ち上げるまでの流れ④事務所の設備・備品を準備する」の項目で記載したような設備・備品・消耗品等を準備する費用として、50万円〜100万円ほどが必要になるでしょう。
訪問看護の開業資金の内訳④ 人件費(開業準備)
採用した従業員は、開設日から勤務して、初日からサービスを提供するわけではありません。開設準備や事業所の理念・方針などを伝える期間も雇用することになります。 そのため、開設に関わる人件費として、50万円〜100万円ほどが必要になるでしょう。
訪問看護の開業資金の内訳⑤ 広告宣伝費
事業所を開設するにあたり、「従業員を採用するための求人広告費」や「営業に使用する名刺やパンフレット」、「自社の情報を発信するためのホームページの作成費用」などが、約30万円〜50万円がかかるでしょう。
訪問看護の開業資金の内訳⑥ 運転資金
介護報酬も診療報酬も、開設してサービスを提供してから入金されるまでに約2〜3ヵ月の期間がかかってしまいます。そのため、開設してから3ヵ月分の経費を支払うための資金が必要となります。 また、開設してからすぐに訪問のスケジュールを埋めるには、相当な営業スキルが必要となり、開設初月などは収入が少ないことが予測されます。 これらを含めると、運転資金として200万円〜300万円ほどの資金が必要になると思われます。
訪問看護の開業における資金調達の方法
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫とは、一般の金融機関の取り組みを補完し、中小企業者や国民一般の資金調達を支援するための金融の機能を担っている公的な金融機関です。 「一般貸付」、「新規開業資金」、「女性、若者/シニア起業家支援資金」など、様々な種類の融資制度が設けられています。
銀行・信用金庫等の金融機関からの融資
お近くの銀行や信用金庫などの民間の金融機関でも、事業者向けの融資が行われています。 その中には、医療や介護向けの融資プランなどが用意されていることもあります。 事業所を経営する上で銀行口座は必ず作りますが、介護報酬や診療報酬の入金される口座と月々の支払いや借入金の返済などを行う口座は、同じ口座の方が事務処理の煩雑さを軽減することができます。
訪問看護を開業するときの注意点
訪問看護を開業するときの注意点① 看護師の不足
全国的に看護師不足が叫ばれています。求人の募集をしてもなかなか応募がなく、人員基準を満たすことができずに開業できないことや、開業後に休止しなくてはいけなくなることがあります。
訪問看護を開業するときの注意点② 介護報酬・診療報酬の改定
「介護報酬は3年ごと」に、「診療報酬は2年ごと」に、報酬の体系や単位数などが見直されています。訪問看護は、収入のほとんどを介護報酬と診療報酬が占めるため、改定の内容によっては経営状況が大きく変わってしまいます。 ですから、報酬改定について最新の情報を集め、業界の動向を予測して、適切な事業計画を作成することが必要になります。
訪問看護を開業するときの注意点③ 十分な運転資金の確保
事業を行う上で、事業計画や収支計画を作成することになると思いますが、綿密な計画を立てたとしても実際に計画通りに運営ができるかどうかはわかりません。
そして計画通り運営できない場合、開業資金として準備した運転資金が足りなくなる恐れがあるので、余裕を持って運転資金を確保する必要があることに留意しましょう。
まとめ
訪問看護は、初期費用を抑えて、確保する従業員数が少ない状態で開業することができます。地域社会でのニーズが高く、固定の費用が少ないことからも収支状況が安定しやすいという特徴もあります。
しかし、「保健師・看護師・准看護師」という専門職を確保すること、利用者の確保、報酬の加算の算定など注意すべき点もたくさんあります。
訪問看護ステーション向けの介護経営支援ソフト『カイポケ訪問看護』には、訪問看護事業所の開設に関わるサポートを行う『開業支援サービス』があります。専任のスタッフが、皆様の開業の疑問や不安に対応させていただきますので、開業に関して疑問や不安がある方は、ぜひご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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