組織の成功循環を生み出すためのコミュニケーション設計
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EMPAWA株式会社 佐藤文俊
新潟大学医歯学総合病院を経て訪問看護に従事。副所長や診療看護師(NP)を経て、教育・組織支援にも尽力。現在はEMPAWA株式会社代表として、訪問看護におけるナレッジマネジメントを中心に、業界全体の底上げを目指して活動中。S-QUE訪問看護チーフプランナー。
目次
はじめに
組織において、日々何気なく行われていて、最も影響力が大きいといっても過言ではないのがコミュニケーションという行為です。組織内のコミュニケーションの乱れは、組織の秩序の乱れに直結します。また、組織の高い成果や、スタッフの主体的な行動は、一朝一夕に生まれるものではありません。その土台には、日々の良質な関わり合いと、それによって築かれる信頼関係があります。
本稿では、組織が安定的に成長するために、コミュニケーションをどのように戦略的に設計すべきかについて解説していきます。
そもそも、なぜ組織内コミュニケーションは、活性化させないといけないのか?
チームの3要素の1つに「意思疎通」
組織内にいるメンバーがチームとして機能するためには、「共通目的」「貢献意欲」「意思疎通」が必要不可欠であると言われています。コミュニケーションが不十分である場合、組織はバラバラで動いてしまい相乗効果を生み出せません。場合によっては、コミュニケーションエラーによって余計なコストが生じてしまい非効率な集合体となってしまいます。
そのような状況では、組織が高い成果を挙げることは困難です。
組織におけるグッドサイクルを生み出すのに重要な役割を果たす
組織の成功循環モデルとして、ダニエル・キムが提唱したサイクルが有名です。
そこでは、グッドサイクルとバッドサイクルがあり、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」の4つの要素に焦点が当たっています。
関係の質を高めることで、思考の質、行動の質、結果の質が良くなり、さらに関係の質が高まるという好循環が生まれるとされています。
反対に、関係の質が悪ければ、思考の質、行動の質、結果の質も悪くなり、さらに関係の質も悪くなるという悪循環につながります。
ここからも、組織内のコミュニケーションを軽視できないことが分かります。
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主体的な行動を促すのに重要である
ほとんどの経営者・管理者は「スタッフが主体的に組織のために行動してくれたら…」と願ったことがあるのではないでしょうか。
このような主体的な行動は、プロアクティブ行動と言われています。
このプロアクティブ行動を促進するには、4つの職場特性があるとされており、これらの特性を見ても、コミュニケーション設計の重要性が伺えます。
プロアクティブ行動を促進する4つの職場特性1)
コミュニケーションの活発さ
新しいことを積極的に受け入れる職場
職場のみんなが支え合う職場
職場のみんなが学ぶことに積極的な職場
安全文化の醸成
すでにみなさんがご理解されている通り、医療の現場では、一つのミスが命に関わるような、高い緊張感のもと様々な行為が行われています。
そのような状況下においても、事故発生件数を低い水準で抑えている組織の特性があり、その特性を持つ組織を高信頼性組織といいます。
高信頼性組織と安全文化には密接な関係があり、罰を恐れることなくミスに注目できるような雰囲気づくりが安全文化を醸成し、不測の事態を未然に防ぎ、不測の事態発生時にも迅速な対処と再発防止ができる組織体質を作り上げます。
それらの全ての土台は良質なコミュニケーションとスタッフ同士の信頼関係であり、普段からミスが起きないように注意しつつも、いざミスが起きた際にはミスを組織の学習材料と捉え、原因を人に帰属せずに構造に着目し、再発防止策を検討するような風土である必要があります。
心理的安全性の確保
心理的安全性は、すでに広く知られるようになりました。注目されるようになった発端はGoogleが生産性の高いチームにある5つの要素のうちのひとつに、心理的安全性があったことでした。心理的安全性が広く知られるようになった結果、概念の言葉のイメージから「組織にいるみんなが安心・安全・快適にいられる雰囲気」が心理的安全性であるという間違った解釈で広まってしまいました。
そして、そのイメージのもと心理的安全性を高めようと雰囲気づくりをしていった結果、組織がぬるま湯のような状態になり、「だらけた雰囲気でスタッフが頑張らなくなってしまった。」という話も、よく耳にします。
心理的安全性は本来、「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」2)と定義されています。組織内で「こんなこと言っても大丈夫だろうか…?」と不安になるようなことであっても、きちんと発言できるような雰囲気が真の心理的安全性です。
当然、新入職員が基本的な質問をしたときに、「え?そんなことも知らないの?」と先輩から言われてしまっては、自分が無知である分野に対して隠すようになり、コミュニケーションを避けるようになってしまいます。このようなコミュニケーションが常態化してしまっては、心理的安全性を確保することはできず、組織の力は高まっていきません。
そのため、心理的安全性を確保できるようなコミュニケーションをスタッフ同士が行うよう、戦略的に設計する必要があります。
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組織内コミュニケーションの原則
無礼な立ち居振る舞いを許容しない
無礼な立ち居振る舞いは、『Think CIVILITY(シンク・シビリティ)―「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』によると、以下のような悪影響があるとされています。3)
周囲を攻撃的にする
認知能力を下げる
なんらかの医療ミスにつながる
集中力を低下させる
80%の人が無礼な態度を気に病み、仕事に使うべき時間を奪われている
63%の人が無礼な人を避けるために仕事に使う時間を奪われている
78%の人が組織への忠誠心が低下している
そのため、たとえハラスメントに該当しないような言動であったとしても、組織外はもちろんのこと、組織内であっても礼儀正しい立ち居振る舞いを求めるようにしましょう。
基本的なことでいえば、以下のような内容が挙げられます。
後輩や新人も「さん」づけで名前で呼ぶ
挨拶をする、返す
呼ばれたら返事をする
話を聞くときは作業を中断して相手の目を見る
相手の話をさえぎらずに最後まで聞く
不機嫌を表に出さない
人を不快にするようなイジりや冗談は言わない
指導は相手に敬意をもって行う
スタッフがミスをしたときや先輩が後輩に指導をするとき、言葉が強くなりがちで相手のことを否定するような伝え方になりがちです。
しかし、指導を受ける側の立場になってみると、「フォローが不十分だった」「自分に非があるかもしれないが、言い方に納得できない。」「教える側はそんなに偉いのか?」など気持ちにわだかまりができます。
特に看護師の指導でよく耳にするのは、修辞疑問です。
修辞疑問というのは、質問をしているようですでに答えが決まっているものです。
例えば、
「なんで、そんなことしたの?」
→「そんなことしたらダメだって当然わかるよね。」
というものです。
この修辞疑問は、私は悪魔の言葉と位置づけていて、問いかけられた相手は否定され追いつめられ、自分の非を謝ることしかできず、ひどく傷つきます。
その結果、萎縮して仕事をすることが怖くなってしまったり、ミスから学習をするより、どう怒られずに済むかに労力を割くようになってしまいます。
このような修辞疑問は組織内では禁止とし、「次にもっと上手くやるために、どういう工夫が必要か」話し合ったりアドバイスをするようにしましょう。
批判者ではなく、解決者の立場をとる
スタッフのなかには、組織の批判ばかりして、「組織や管理職はダメなところばかり。自分はそれを指摘できる優秀な人。」というスタンスで振る舞うような方もいます。そのようなスタンスを許容していると組織批判を聞かされる不要なストレスをスタッフにかけることになり、場合によっては、その批判に同調をするスタッフが出てきて組織内で反組織グループのようなものが出来上がり、組織に分断を生むことになりかねません。
そのため、「批判するだけの行為は組織行動としてふさわしくない」ということをスタッフに示す必要があります。
優秀な人材像として、「批判に終始するのではなく、現状をよりよくするために自分に何ができるのか、このような状況から自分は何を学べるかを考え行動できる者」を掲げ、批判者ではなく解決者の立場で行動する者が優秀な人材であるということを周知するとよいでしょう。
良好なコミュニケーションを活性化する施策例
研修でコミュニケーションスキルを高める
コミュニケーションは、今まで周囲の人たちと日常的に取ってきたスタイルが色濃く反映されるため、無自覚に組織にとって望ましくないコミュニケーションを取ってしまっていたり、望ましくないと分かりつつも、どういう言い回しをすればいいのか分からないという方も少なくありません。
そのため、どういうコミュニケーションが組織において望ましいのか、良い例と悪い例を示し、良い言い回しのボキャブラリーを増やしていきます。
トップダウンで率先垂範
組織内のコミュニケーション文化は、上流から決まっていきます。
社長や上司がスタッフに対して取っているコミュニケーションを他のスタッフが見て「この組織では、こういうコミュニケーションをとってもいいのか。」と学習していきます。
そのため、役職者全員が組織にとって望ましいコミュニケーションを取ることができれば、それをスタッフが学習し、踏襲して良いコミュニケーション文化が出来上がります。この方法が最も早く確実に望ましいコミュニケーション文化を定着させる方法になりますので、手始めに施策を行うとすれば、社長自らが自身のコミュニケーションを見直し、そのうえで管理者のコミュニケーションをマネジメントしていくことから始めてみましょう。
組織における「正義」の共有
組織内で対立が起き、それが泥沼化する原因の一つに、個人の正義と正義がぶつかってしまうことが挙げられます。そのため、組織における正義はなんなのかを明文化し、全スタッフに共有しておくことが望ましいです。
共有する方法としては、社訓やマニュアルを作成して定期的にカンファレンスや面談時に確認するなどがあります。
また、人事評価制度に組織行動に関する項目を設け、人事評価面談時に振り返りをすることでも、組織における正義を理解する機会とすることができます。
表彰制度
組織の理念に沿った行動をしているスタッフを理由とともに全スタッフの前で表彰することで、スタッフに組織がどういう考え方や行動を望んでいるのかということを示すことができます。
会社によっては、挑戦をした結果、大失敗をした社員を表彰する大失敗賞というのを設けているところもあり、ユニークな賞を作ることで組織のスタンスを示すこともできます。
例えば、大失敗賞を設けることで「組織は挑戦を歓迎し、そのうえでした失敗は賞賛すべきだと考えている」という姿勢を示すことができます。
メンター(プリセプター)制度
新入職員にメンターがつく制度も良好なコミュニケーションを活発にするのに有効です。看護業界ではメンターではなくプリセプターという表現のほうが馴染み深いかもしれません。
メンターを新入職員につける目的は早く業務に慣れて自立して活躍してもらうためだけではありません。組織の文化や組織が求める行動を、1対1のコミュニケーションを通して細かいニュアンスまで伝えていくためでもあります。また、新入職員と組織内のスタッフのコミュニケーションを橋渡しすることで、スタッフ同士の相互理解を深めていく役割もあります。
そのため、メンター制度を設けて組織が求める人材像としてふさわしいスタッフをメンターとして任命し、新入職員のフォローをしてもらうことで新入職員が仲間入りした後でもコミュニケーションが活性化しやすくなります。
おわりに
組織内のコミュニケーションは、組織の秩序に大きな影響を与え、戦略的に整えていくことで組織にも働くスタッフにも非常にポジティブな影響をもたらしてくれます。
まずは、無礼さを排除し、互いに敬意を持つ土台を作り上げていくことから目指してみてください。
それだけでも、組織の雰囲気が清浄化されていく実感を持つことができるはずです。
本稿で触れた視点が、皆様の組織において、誰もが安心して力を発揮できるチーム作りの一助となれば幸いです。
【引用文献】
1)尾形真実哉(2022)『組織になじませる力――オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』, アルク
2)効果的なチームとは何か」を知る(Google re:Work ガイド). https://rework.withgoogle.com/intl/jp/guides/understanding-team-effectiveness
3)ポラス,C.(著),夏目 大(訳).(2020).Think CIVILITY(シンク・シビリティ)―「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である.東洋経済新報社
【参考文献】
長谷川尚子(2014). 不測の事態を抑止し、対処できる組織の要件 ― 高信頼性組織、レジリエンス、安全文化を踏まえて. REAJ 誌, 36(2), pp.113–120.
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