組織の健全な新陳代謝を設計することが持続成長のカギになる
公開日: 更新日:
EMPAWA株式会社 佐藤文俊
新潟大学医歯学総合病院を経て訪問看護に従事。副所長や診療看護師(NP)を経て、教育・組織支援にも尽力。現在はEMPAWA株式会社代表として、訪問看護におけるナレッジマネジメントを中心に、業界全体の底上げを目指して活動中。S-QUE訪問看護チーフプランナー。
目次
はじめに
「離職率ゼロ」という言葉は、一見すると理想的に思えるかもしれません。
しかし、組織の人材マネジメントにおいて、ただ退職者を出さないことを目的化してしまうのは非常に危険です。
もし、組織にとって望ましくない行動をとるスタッフが居座り、組織の課題が放置されている状態で離職者がいないのであれば、それは組織としては不健全です。
本当に重要なのは、人も組織も成長し続け、顧客と関係者に高い価値を提供し続けられることです。
本記事では、退職を「組織が持続的に成長するための健全な新陳代謝」と捉え、望ましい組織行動をしてくれるスタッフが活き活きと働くことができ、望ましくない組織行動をする人が組織から自然と離れていくようなフィルター機能を組織に備え付けるための実践的なマネジメント手法を解説していきます。
退職がないのは、本当に組織にとって良いことなのか?
「離職率ゼロです!」という話を聞くと、みなさんは素晴らしいことだと思うでしょうか。
もし、スタッフ全員が高いパフォーマンスを発揮していて、人も組織も成長し続けているのであれば素晴らしいことだと思います。
しかし、離職率はゼロだけれどもスタッフは適当に仕事をしていて組織の課題は宙づりのまま放置されている状況であれば、それは悲惨な事態です。
つまり、退職者を出さないことが重要なのではなく、人も組織も成長し続けて顧客や関係者に高い価値を提供し続けた結果、利益が出て事業を継続し、発展し続けられることが重要だということです。
退職者を出さないことにこだわりすぎると、本来の目的を見失ってしまい、組織が空中分解してしまうリスクがあります。
組織にとって望ましくない行動をする人材が居続ける弊害
組織にとって望ましくない行動をとる人材が在籍している場合、そこには様々な弊害が生じます。
例えば、良い人材の採用が難しくなるという点です。
優秀な人材は、誰と働くかを重視する傾向があるため、事業所の見学に来た際に不満げに働いているスタッフや、組織や仕事の愚痴をこぼしているスタッフがいれば、そこを就職先の候補に入れることはありません。また、採用が困難になるだけでなく、現在いる良い人材が離れていく要因にもなり得ます。
組織行動を理解している人にとって、周囲に負の影響を与える人と一緒に仕事をすることは負担となります。
仕事に集中したい場面で愚痴や不満を聞かされ、その対応に時間を割かれるたびに、貴重な時間と労力が奪われてしまうからです。
また、機嫌によって態度が変わったり、他人のミスを激しく責め立てたりするスタッフが職場にいると、周囲は常に配慮しながらコミュニケーションを取らなければならず、本来不要な労力を費やすことになります。
さらに、自己中心的なシフト希望を通す、手間のかかるケアや困難事例を避ける、オンコールの待機を嫌がるといった行動があれば、そのしわ寄せは、仕事を断らないスタッフに及んでしまいます。
管理職も、そうしたスタッフが引き起こしたトラブルの解決や人間関係の仲裁、ルールの再周知などに追われることになり、本来行うべきマネジメント業務が後回しになってしまいます。
これらは影響のごく一部ですが、望ましくない行動をとる人材を放置したり、彼らにとって居心地の良い環境が維持されたりすることは、組織にとって望ましい状態とは言えません。
まず組織が誰を大切にするのかを明確にすべき
「組織は全てのスタッフを大切にすべきである」と言いたいところではありますが、実際問題、それは採用が完璧に上手くいっている状況以外では不可能に近いです。
その理由は、組織貢献度が大きい人が、組織に一切貢献をしていない人のことを自分と同じように組織が大切にしているのを見て、どのように感じるか想像をしてみると分かります。
同じ組織に属する全員が完全に同じベクトルを持って、同じくらいの能力で、全力で仕事をしていない限り、誰を大切にするのか優先順位をつけないと、組織に愛着があり、貢献をしてくれている人材から、愛想を尽かして離れていってしまいます。
組織が大切にしたい人材像を明確にして、その人たちをまず徹底的に大事にすることが優先度高く取り組むべきことです。
組織にとって望ましい人材が残る体制づくり
組織にとって望ましい人材が残るためには、どのような行動が望ましく、どのような行動が望ましくないのかを明文化する必要があります。
そのうえで、それらを評価と報酬に連動させることで、組織にとって望ましい行動をする人材ほど高く評価されて高い報酬を得ることができ、「組織のために行動すれば正しく報われる」という体制を整えることができます。
反対に、どんなに知識があって専門職として高い能力を持つスタッフであっても、ルールを守らないなど望ましくない行動をとる場合には、昇給も昇格もしない仕組みにすることで、組織行動の重要性をスタッフへ伝えることができます。
また、望ましくない行動には粘り強くフィードバックし続け、絶対に許容しないという姿勢を見せることで、「自分が変わるか、ここから去るか」という選択を方向づけることができます。
人事評価制度については、「組織の秩序と成長を支える人事評価制度を設計するポイント」の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
防ぐべき退職と応援すべき退職
退職者が出ること自体が悪いことではないと冒頭で話しましたが、「退職者が出ても気にするな。」というわけではありません。
退職の話が出たときに、組織にとって必要な人材が組織が対処できたはずの理由で退職を申し出てきた場合、それは防ぐべき退職です。
もし、本人のキャリアアップや人生をより充実させるための理由で退職する場合、それは応援すべき退職です。
組織に必要な人材が退職を申し出た際、つい引き止めをしたくなりますが、引き止めをしても良いことはほとんどありません。
引き止めをして、しぶしぶ組織に残っても良いパフォーマンスを発揮することは期待しにくいためです。
「仕方なく残ってあげた。」というようなスタンスが仕事の姿勢に影響することもあります。
そして、そのような姿勢は他のスタッフにも悪影響を及ぼします。
ひどいときには、自分勝手な行動が増え、少しでも負荷がかかると辞めることをチラつかせるようになるなど、仕事を割り振るコストが高くなることさえあります。
退職の話が出た際は、基本的には「去る者は追わず」のスタンスで段取りを進めていくことをお勧めします。
スタッフが退職したときの振り返り方法
組織にとって必要な人が辞めたとき
「この人は組織にとって必要な人なのに、なぜ……」という人が辞めてしまったときは、組織体制やマネジメント方法を見直す必要があります。
もしかしたら、その人の退職は氷山の一角で、他にも組織にとって必要な人材が退職を控えているかもしれないためです。
優秀な人材は組織と円満に退職するため、本音を言わずに退職していきます。
そのため、ただ理由を聴いただけでは本当の理由とは別の、当たりさわりのない理由しか教えてくれません。
このような状況で情報収集するには、質問の仕方を工夫する必要があります。
「あと、どういう支援があったら、もう少し長く働いてくれた?」のように直接退職理由を聞きだすような質問するのではなく、「スタッフがより働きやすい組織になるために、どうすればいいか私の相談に乗ってくれませんか?」と、主語を「あなた」ではなく、「スタッフ」にずらして質問します。
そうすることで、その人が感じている組織の本当の課題を話してくれやすくなります。
「辞めたほうがお互いのため」という人が辞めたとき
辞めたほうがお互いのためだという人が退職した場合、組織として正しい方向に進んでいる証明の一つでもあります。
しかし、そもそも組織にマッチしていなかった人が入職したという事実があるからこそ、そのような事態になっているため、組織にマッチしていない人が入職した原因を分析して採用動線を見直す必要があります。
そうでなければ、同じ事態を繰り返すことになり、組織にとっても、入職した人にとっても、働いているスタッフにとっても大きな負担になります。
組織とアンマッチな人が入職し、退職したときには、必ず変えるべき採用動線を分析し、改善していきます。
多くの場合、RJP(RealisticJobPreview)を内定前に行っていないことでアンマッチが生じます。RJPというのは、「ネガティブな側面も含めた、現実に基づく情報を包み隠さずに提供すること」で、特にSNS等で自社の強みや魅力的な部分を強く打ち出している場合、入職後の期待が膨らみ過ぎてリアリティショックで早期離職につながることがあります。
採用動線のどこかで、組織や仕事の良い面だけでなく、大変な部分や課題なども正直に説明する機会を設けることが重要です。
やむなく遺留しないといけない時のポイント
組織にとって望ましくない行動をする人材でも、人員基準がギリギリの場合など、いてもらわないと困るということもあると思います。
そういうときには、業務に対するリスクハンドリング、仕事との向き合い方に対するスタンスハンドリング、周りのスタッフへの悪影響に対するコミュニケーションハンドリングの3つを意識的に行い、組織への悪影響を最小限にするようマネジメントします。
リスクハンドリング
安全に業務が遂行できなかったり、組織が求める水準の仕事ができない場合には、利用者への不利益につながったり、組織の評判が落ちる可能性があります。
信頼で成り立つ訪問看護事業において致命的な悪影響を及ぼしかねないので、細かくマネジメントしなくてはいけません。
どの程度の業務を任せ、どこまで確認をしてマネジメントするかを判断し、許容できるリスクの範囲内で業務を遂行してもらいます。
スタンスハンドリング
組織にアンマッチである場合、仕事における姿勢にも良くないかたちで現れることがあります。
あからさまにやる気が見られなかったり、「それ、私の仕事ですか?」と必要最低限の業務しかやりたがらないこともあります。
また、仕事の負荷と本人の耐性がアンマッチである場合には、「仕事が大変で辛くて辞めたいです。」と負荷を下げることを要求してきたりすることもあります。
本人に辞めてもらっては困るという状況では、組織に望ましくない姿勢を強くフィードバックすることは難しいので、「ここだけは最低限やろう」と共通認識を持ちつつ、普段から頑張っていると感じていることをしっかり伝えることでモチベーションをコントロールしていきます。
コミュニケーションハンドリング
組織にアンマッチな人は、時に周りのスタッフに上司や組織の悪口を言うようになります。
それは、「自分の正義のほうが正しい」と周りに理解してもらいたかったり、自分に共感してくれる人を増やして組織の中で孤独にならないようにしたかったり、組織を壊して自分の影響力の強さを誇示したかったりと理由は様々です。
こういう場合には、当人に「そういう言動は慎むように」と諭しても効果は乏しいです。
上司のいないところで、こっそりと、その言動は続きます。
このような場合にアプローチすべきは、当人の影響を受けやすかったり近い距離にいるスタッフです。
意識的に頻繁にコミュニケーションを取るようにします。
その際、決して当人のことは批判せず、「当人がそういう言動をしてしまっているのは知っているけれども、貢献してくれる人が報われるためには、このスタンスを崩すことはできない。」などと理由を説明します。
ポイントは、“人は2つの異なる意見があるとき、自分が信頼している人のほうを信じる”ということです。
組織にアンマッチな当人よりも、管理者や代表が周りの人から信頼されていれば、組織に大きな悪影響が及ぼされることはありません。
そのためには、組織が目指す方向性やスタッフの良いところ、頑張りを日頃から意識的に伝えることが重要です。
おわりに
退職のマネジメントは、単に辞めようとする人をいかに引き留めるかに注意が向きがちです。
しかし、本記事でご覧いただいたように、組織にとって必要な人材が正当に評価されて定着し、そうでない人材とのアンマッチを早期に防ぐ、あるいは健全な形で送り出すという組織のフィルターを正しく機能させることが肝心です。
望ましくない行動をとるスタッフに毅然と対応し、時には「去る者は追わず」のスタンスを取ることは、管理者にとって勇気のいる決断かもしれません。
しかし、その決断こそが、日々真面目に貢献してくれている優秀なスタッフを守ることに繋がり、結果として新たな良い人材を惹きつける強い組織風土を作ります。
退職を過度に恐れるのではなく、組織の新陳代謝と捉え、健全な新陳代謝を生むために何が必要かを、本記事をヒントにお考えいただければ幸いです。
必要な機能がオールインワン