即転職時代における訪問看護のキャリアパス設計
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EMPAWA株式会社 佐藤文俊
新潟大学医歯学総合病院を経て訪問看護に従事。副所長や診療看護師(NP)を経て、教育・組織支援にも尽力。現在はEMPAWA株式会社代表として、訪問看護におけるナレッジマネジメントを中心に、業界全体の底上げを目指して活動中。S-QUE訪問看護チーフプランナー。
目次
はじめに
人材流動性が高まるなかで、「その会社で働き続けることで、自分は何者になることができるのか」ということに関心が集まっています。
その関心に対して会社が用意できる答えの一つがキャリアパスであり、人材マネジメントについて戦略を練るうえで無視できないものになりました。
本稿では、“キャリア”や“キャリアアップ”という言葉の捉え方に触れながら、それらを踏まえてキャリアパスをどのように考え、設計し、構築していけばよいのかを解説していきます。
そもそも、キャリアとは何か
キャリアというと、学歴や職業、就職先、所属組織における地位、経歴などを思い浮かべるのではないでしょうか。それらは、いわゆるキャリアのハード面であって、持っているスキルや培ってきた経験などのソフト面も重要です。
訪問看護事業所におけるキャリア形成では、特にソフト面が重視されるような印象を筆者は持っています。
つまり、「ここでは、どんな経験ができるのか。」「どのように成長していくことができるのか。」「ここで働き続けることで、自分はどんな存在になれるのだろうか。」という問いに会社が用意できる答えが、求職者と働いているスタッフにとってどれだけ魅力的かが人材マネジメントにおいても要(かなめ)になります。
キャリアアップを柔軟にとらえる
多くの人は、キャリアアップをするために転職を検討します。その、“キャリアアップ”という用語の用いられ方が、非常に多様化しているように筆者は感じています。
「キャリアアップのため」という理由で転職をした人の話を聞いていると、以下のように感じることがあります。
「キャリアアップというよりも、自分の新たな可能性を探るためのジョブチェンジではないだろうか。」
「今までのネガティブな出来事やしがらみをリセットするための、ライフチェンジを目的としたものではないだろうか。」
「より効率的に稼いで、プライベートの時間を確保するためのライフチューニングではないだろうか。」
そして、管理職に昇進することは、キャリアアップではなく、罰ゲームと揶揄されるようになってきている風潮もあります。
このように、キャリアにまつわることは、少し前から潮目が大きく変わっていて、それは訪問看護業界においても例外ではありません。
そのため、キャリアパスについて考える際にも、キャリアという言葉を柔軟に捉え、柔らかい頭で、広範囲な要素を考慮して設計していく必要があります。
キャリアパスとは何か
キャリアパスというのは、目指す目標に対して必要な知識やスキル、経験を明示して、目標に到達するまでの期間やステップを可視化したものです。
長野県看護協会が、訪問看護師のキャリアパスを作成し、公開しているので参考になるかと思います。
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出典:公益社団法人長野県看護協会.訪問看護師のキャリアパス.2024.
一般的なキャリアパスは先述したような内容のことを言いますが、ここではもう少し広い意味で扱っていきたいと思います。
具体的には、スタッフが望む多様なキャリアニーズに対して会社が用意できる道筋も含めてキャリアパスとして扱います。
例えば、以下のようなキャリアニーズが考えられます。
家族との時間を大事にしながら働き続けたいため、短時間常勤で働き続けながらも自身が深めたい専門領域のスキルアップを図ることができる。
将来的には資格を活かして起業したいため、週4日勤務をしながら副業をしたい。
研究と臨床を両立したいため、大学院に通いながら、週2日、現場で働きたい。
もちろん、スタッフや求職者のキャリアニーズに応えるためだけに会社が存在するわけではありませんので、会社側は、どのようなキャリアニーズに応えるかを会社理念や人材戦略などと照らし合わせて判断していくことになります。
最も重要なゴールは、組織の人材価値が高まることによって、顧客への提供価値が向上したり、組織発展への寄与につながることです。
キャリアパスが今の時代に重要になる理由
終身雇用が前提でなくなったことは、すでにみなさんご存じかと思います。それによって、自身のキャリアは自身で積極的に関与して形成していくというキャリア自律の考え方が注目されてきています。
また、兼業を認める会社も増え、訪問看護で働く医療従事者も本業で働きながら副業をするという働き方は珍しくなくなりました。
このような変化によって、働く人々にとって組織は無条件に完全にコミットする場というよりも、所属するメリットがあるから、なんとなく所属していたいから、といったコミュニティのような場になりつつあるのではないでしょうか。
訪問看護業界では、どこも人手不足で引く手あまたのため、スタッフが無条件に組織にコミットしてくれることは望みにくく、他に魅力的な職場があれば簡単に転職をしてしまいます。
求職者やスタッフが理想とするキャリアプランと会社が用意できるキャリアパスの共通部分が多いほど、多くの仲間が入社してくれ、スタッフが組織に長く所属してくれるようになりますので、多様なスタッフが持つキャリアプランとなるべく共通点が多い、柔軟なキャリアパスを用意することが重要となります。
キャリアパス設計において重要なこと
自分がどのように成長できるのかイメージできる
キャリアパスを設計するうえで重要になるのは、求職者やスタッフが「この会社で働いたら、自分はこんな風に成長できる」ということが具体的にイメージできることです。
そのためには、具体的に仕事で経験できること、身につく知識やスキル、受けられるトレーニング、サポートスタッフのレベル、取得できる資格などを明示して、スタッフや求職者のキャリアプランにマッチする魅力的な成長イメージを伝えられれば、より多くの仲間が集まり、長く定着してもらいやすくなります。
もし、すでにキャリアパスのゴールに近いスタッフが社内にいる場合には、ロールモデルとして交流ができるような設計にすると、より採用ならびに人材定着、人材価値向上にポジティブな効果が見込めます。
無理のない成長ステップが用意されている
どのように成長できるのかが可視化されているとしても、あまりに負荷の大きい働き方になってしまえばスタッフは離れ、求職者には敬遠されてしまいます。
負荷の大きい成長ステップになってしまっている代表的なものは、管理職のキャリアパスです。
一人前の管理者になるためには、一般的に以下のような壁が存在します。
一人前のプレイヤーになるという壁
部下育成を上手に行うという壁
権限移譲を上手に行うという壁
幅広い関係構築を行えるようになるという壁
俯瞰的な戦略思考ができるようになるという壁
先見性をもちイノベーティブな行動をとれるようになるという壁
このように、非常に多くの壁を乗り越えなければいけませんが、管理職教育となったとたん、一つひとつステップを上がっていくのではなく、まるで勢いよく助走をつけてスキージャンプをするように、それらのスキルを順序性なく同時並行で研鑽して目標到達点まで達することが求められます。
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このようになってしまいがちな理由は、管理者の教育者が基本的には事業所の代表者であり、事業所の代表者は、非常にストレス耐性が高く能力値も高い、いわばスーパーマンだからです。
代表者自身が苦しみながらもできてしまったことなので、他の人もできるだろうと思ってしまいがちです。これが乗り越えるべき必要な試練だと、ポジティブにとらえていることもあります。
しかし、多くの管理者候補は、このプレッシャーに耐え切れず、潰れてしまいます。
成長した末にたどり着ける最終到達点と、会社が用意している支援内容を示すだけでなく、中間の成長ステップをいくつか用意して、それぞれのステージの到達レベルと次のステップに向けて重点的にトレーニングするスキル、そして、そのスキルを高めるために受けられる会社からの支援内容を明示することが重要です。
そうすることで、潰れることなく、無理のないペースで着実に成長のステップを進められる安心感やキャリアゴールに向けて着実に前進している成長実感を得ることができ、キャリア満足度も高まりやすくなります。
各ステップにおける成長支援が明確である
成長のステップが示されていても、具体的にどのようにしてステップアップしていけるのかが不透明ではキャリアパスの説得力を欠いてしまいます。
人によっては、ステップが用意されているものの、「どのように上がるのかは自分の努力次第」と丸投げされているように感じてしまい、会社が無責任に感じてしまうこともあります。
自身のキャリアに関心が高い人は「自分はここで働くことで、本当に望むキャリアを築いていけるのだろうか。」という、キャリアへの焦りを感じながら就職や転職に関する情報収集と行動選択をしています。SNSが発達してからはキラキラ活躍している同世代の情報に触れやすくなったことで、より焦りが煽られやすい環境になりました。
そのため、組織は早めに見切られやすくなり、人手不足で売り手市場の状況が、更にその行動を助長しています。
つまり、会社としてはスタッフに成長していっている実感と、成長していける期待感を持ってもらえる環境を用意できなければ早めに見切られてしまう可能性が高まります。
成長の各ステップにおいて、具体的にどのような支援を受けることができるのかが分かることで、「ちゃんと計画的に次のステップに上がることができそう。」という実感を持ってもらうことが重要です。
具体的に、何に取り組めばいいのか
年数に応じた到達レベルを明示する
在籍年数に応じたキャリアパスごとの到達レベルを明示することで、スタッフは自分が今、順調にステップアップできているのか、それとも遅れていて焦るべきなのか指標を持つことができます。
例えば、先ほどの長野県看護協会のラダーを活用するとすれば、以下のように目安を設けることができます。
ラダーⅠ:入社~半年
ラダーⅡ:半年~2年
ラダーⅢ:2年~3年
ラダーⅣ:3年~4年
ラダーⅤ:4年~5年
このように、目安を設けることで、スタッフは時間軸を踏まえて自身の成長を測定することができます。
また、年単位のキャリアパスを設けることで、「まだ、ここで学ぶべきことがある」と、スタッフの短期離職を抑制することも期待できます。
実現できるキャリアの根拠を示す
「ここで働けば、こんなキャリアが実現できます!」というような求人に惹かれて入職した結果、キャリア支援など一切なく、「話が違う!」と憤りをあらわにしている投稿をSNSでよく見かけます。
これは、本当に内容を盛って“よく見せただけ”の求人だったかもしれませんし、キャリア支援があったけれども求職者の期待値を大きく下回ったからなのかもしれません。
いずれにせよ、入職前に聞いていた話と、入職後の実態があまりに異なる可能性があることは、広く知られるようになりました。
つまり、求職者は、PRを鵜呑みにせず、いかに説明に信憑性があるのか、シビアに見るようになってきています。
そのため、なぜ、そのようなキャリアを実現できるのかを、会社が用意している環境や教育体制、実際にスタッフが実現しているキャリアモデルを提示することで説得力のあるキャリアパスにすることが重要です。
人事評価制度を設計する
キャリアアップという文脈には、待遇の向上が含まれます。キャリアパスが用意されていて、自身がそれに則って成長していったとしても、会社内での待遇が変わらなければ、スタッフはキャリアアップをしている実感は持てません。
そのため、キャリアパスに沿って成長していくほど、報酬が上がっていくように人事評価制度を設計するようにしましょう。
人事評価制度の設計については、こちらの記事で詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
多様な働き方を用意する
先述のキャリアニーズの例にあるように、スタッフが会社で働く以外に他に両立したいことがある場合、それが実現できるように、短時間正社員やフレックスタイム制を導入するなど柔軟な働き方を選択できる環境があるのが理想的です。
「会社で働く以外に実現したいこと、諦めたくないこと」があった場合に会社を辞める選択をしなくていいように、会社で働く比重を柔軟にコントロールできる多様な雇用形態を用意することもキャリアパス設計のポイントのひとつです。
複線的なキャリアパスを用意する
昇進=管理職コースという一つのキャリアパスではなく、プレイヤーとしての専門性を高めていくスペシャリストコースや、プレイヤーだけでなくバックオフィスや事業運営のことを業務として行うジェネラリストコースなど、複数のキャリアパスを用意しておくことでスタッフの幅広いキャリアニーズに応えることができます。
スタッフとの面談を通して、幅広いキャリアニーズに応えられるキャリアパスを柔軟に設計していきましょう。
おわりに
キャリアパスを設計していく際には、固い頭ではなく、柔らかい頭で柔軟に考える必要があります。まずは、自社のスタッフとキャリアについて語り合ってみてはいかがでしょうか。
スタッフが望むキャリアと自社のキャリアパスがマッチしているのかを確かめ、キャリアパスを設計し直すことで人材価値を高めることが期待できるかを検討してみましょう。
そうすることで、さらに質の高い人材マネジメントの仕組みを構築できると思います。
本稿が、貴社ならではの魅力的なキャリアパスを構築するきっかけとなれば幸いです。
<参考文献>
公益社団法人長野県看護協会.訪問看護師のキャリアパス.2024.
https://nursen.or.jp/files/libs/1170/202412201335599790.pdf
山田直人 ほか.部下育成の教科書.ダイヤモンド社.2012
坪谷邦生.図解 人材マネジメント入門 ― 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ.ディスカヴァー・トゥエンティワン.2020.
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