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組織の秩序と成長を支える人事評価制度を設計するポイント

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組織の秩序と成長を支える人事評価制度を設計するポイント
EMPAWA株式会社 佐藤文俊

EMPAWA株式会社 佐藤文俊

新潟大学医歯学総合病院を経て訪問看護に従事。副所長や診療看護師(NP)を経て、教育・組織支援にも尽力。現在はEMPAWA株式会社代表として、訪問看護におけるナレッジマネジメントを中心に、業界全体の底上げを目指して活動中。S-QUE訪問看護チーフプランナー。

目次

はじめに

訪問看護ステーションの運営において、質の高いサービスを提供し続けるためには、組織の理念に共感し、主体的に成長できるスタッフの存在が欠かせません。しかし、日々の業務の中で、スタッフの頑張りを適切に評価し、将来のキャリアを示す仕組みが不十分なケースも少なくありません。

本記事では、人材マネジメントにおいて組織と個人の持続的な成長を実現するための鍵となる「人事評価制度」について解説します。人事評価制度に関する基本的な定義や構成要素の解説から始まり、なぜ人事評価制度が必要なのか、導入しない場合に起こりうる組織的なトラブルやリスク、そして実務に即した具体的な作成・運用のポイントまでを、重要な点に絞ってまとめました。

人事評価制度は、単に給与を決めるためだけのものではなく、スタッフの成長を促すと同時に、組織の秩序を保つための重要なマネジメントツールです。

本記事を通じて、人事評価制度の役割と重要性、作成と運用のポイントについてご理解いただき、皆様の事業所のさらなる発展にご参考いただけますと幸いです。

人事評価制度とは何か?

人事評価制度とは、シンプルに表現すると、スタッフの成果や努力、能力を、組織が定めた尺度で評価する制度のことです。そのゴールには組織理念の実現があり、そのために人事評価制度を用いてスタッフを評価し、組織全体のパフォーマンス向上を図ります。

人事評価制度は、主に「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つから成り、それらをどのように設計すれば組織理念を実現できるのかを考えます。

等級制度

組織がスタッフに求める能力や役割のレベルを段階的に定義したものです。看護では、クリニカルラダーがよく利用されます。基本給を決定する根拠となる制度です。

評価制度

設定された期間(半年に1回、年に1回など)において、期待に対して実際にどの程度組織に貢献できたかを測定する仕組みです。

報酬制度(賃金制度)

評価結果に基づいて、昇給額や賞与額を決定する基準のことです。

人事評価はなぜ必要なのか?

評価に公平感と納得感を持ってもらうため

人事評価は、スタッフが管理者に評価される形となるのが一般的です。そのため、スタッフが自分の評価に納得できず、管理者が感覚的に評価していると感じた場合、組織に不満が募ります。その結果、「ここで頑張っても無駄だ」と感じさせ、離職やパフォーマンスの低下につながります。

人が人を評価する場合、評価結果に対する「公平感」と、評価プロセスに対する「納得感」がなければ、組織や管理者への不信感・不満につながります。そのため、人事評価制度において明文化された基準を設け、「なぜその評価となったのか」を客観的に説明できるようにする必要があります。

成長のステップが明確になり、スタッフを計画的に育成できるようになる

組織の成長には、構成員であるスタッフの成長が不可欠です。しかし、むやみに経験を積ませれば自然と成長していくわけではありません。組織が求める理想の人材像と照らし合わせ、自身の課題を明確にし、目標を立てて行動し続けることで、段階的な成長が可能になります。

スタッフは、「組織からどのような成長を求められているのか」「どのように成長していけばよいのか」に関心を持ちますが、指針がなければ努力の方向性が定まりません。仮に努力をしたとしても、組織が求めていない方向性であれば、「頑張ったのに評価されない」という不満の原因になります。

人事評価制度を設けることで、組織はスタッフに何を求めているのかを示しやすくなり、スタッフは自身の現在地と次の目標が明確になります。その結果、組織とスタッフがともに着実に成長するためのレールが整います。

組織の秩序を保ちやすくするため

スタッフに問題行動が見られた場合、指導だけでは改善が見られないこともあります。指導によって自主的な改善が見られるのは、組織や上司への信頼や愛着があり、「良く思われたい」「役に立ちたい」という気持ちがある場合、もしくは成長意欲が高く、指摘を真摯に受け止められる場合です。

明確な賞罰がなければ、行動変容は個人の内発的動機に依存します。この状況で特に問題となるのは、問題行動が放置されている様子を組織貢献度の高いスタッフが見たときに、「真面目に尽くす自分が馬鹿らしい」と感じ、当事者よりも管理者や組織に失望してしまう点です。

内発的動機だけに頼ったマネジメントは難易度が高い(採用等で選抜機能が高い水準で機能していないと難しい)ため、報酬を用いた外発的動機付けと組み合わせることで、再現性の高い組織運営が可能になります。人事評価制度によって、望ましい行動・望ましくない行動を適切に評価に反映できれば、問題行動を抑制し、組織の秩序を保ちやすくなります。

人事評価制度がないと、どうなるのか?

組織でトラブルや混乱が起きやすくなる

スタッフの行動が正しく評価に反映されないと、自分勝手な行動がまかり通ったり、努力する姿勢が失われたりし、サービスの質の低下やクレーム、スタッフ間のトラブルが増えていきます。

「この組織にとって何が正しい行動なのか」が明確でない場合、スタッフはそれぞれの個人的な正義を基準に行動することになり、組織内に大きな混乱を招きます。また、理念に共感して入職した新入職員が、現場で理念と異なる行動を目にすることで失望し、早期離職につながるケースもあります。

人事評価制度がないと、理念に沿った行動をする人もそうでない人も同じように評価されるため、真面目に貢献している人ほど不公平感を抱きやすくなります。その結果、協力的な人ほど負担を強いられる、報われにくい環境が生まれてしまいます。

スタッフが定着せず、組織が拡大しない

先述したように、人事評価制度がない場合、組織に協力的な人ほど割を食うような環境が出来上がることがあります。そうなると、貢献度の高い人ほど疲弊して組織から離れていってしまいます。つまり、貢献人材が定着せずサービスの質が安定しないため、組織は一向に拡大していきません。

また、働くスタッフにとって、自身のキャリア形成は非常に高い関心事です。今の組織で働き続けることで、望むような成長や昇進ができるのかを十分にイメージできなければ、売り手市場の訪問看護業界ではすぐに転職してしまいます。人事評価制度がなければ、そのような将来を描きにくいため、スタッフは早い段階で「もうここで得られるものはない」と離職してしまいます。

人事評価制度を作成・運用する際のポイント

人事評価制度がない事業所では、いざ作成しようと思っても、何をどのように作成すればいいのか全く分からないという場合もあるかと思います。必要性を感じながらも、作成のハードルが高く先延ばしにしていたという事業所もあるかもしれません。

ここでは、人事評価制度を作成し運用するうえで特に重要となる「評価項目」「目標設定」「評価方法」に焦点を当ててポイントを解説していきます。

なお、ゼロから人事評価制度を構築している時間がないけれども今すぐ導入したい、という方は、訪問看護専用の人事評価のひながたが標準搭載されており、構築から運用までをカバーできるS-QUE人事評価を検討してみてもいいかもしれません。

評価項目のポイント

まずは何を評価するのか、項目を決めていきます。

項目の設定の仕方は様々なバリエーションがありますが、「この項目をスタッフが高い水準でできるようになれば、組織の理念を実現できる可能性が高まる」と確信を持てる項目を厳選します。まずは、日本看護協会が作成したクリニカルラダーを基に、各都道府県が訪問看護用にアレンジしたものがありますので、それらを参考にして項目設定をするのが手始めとしてお勧めです。

また、専門職としての項目だけでなく、望ましい組織行動に関する評価項目を設けるのも効果的です。「この行動が組織の一員として望ましい(もしくは望ましくない)行動です」ということを定義して評価指標にすることで、スタッフの行動を方向づけしやすくなり、マネジメントが円滑になります。

目標設定のポイント

人事評価では、一般的に目標を設定して、それを達成できたかどうかで評価をします。

目標で管理をする手法はMBO(Management by Objectives)やOKR(Objectives and Key Result)などと言われますが、初めて人事評価を構築する際には、細かい違いは意識する必要はありません。スタッフと管理者が共同で、次の人事評価面談までに達成すべき目標を設定し、次回の面談時に評価することでPDCAサイクルを回す。そうやって着実にスタッフが成長できるように支援する仕組みを作ることを目指します。

目標を設定する際には、スタッフに目標を設定してもらった後に管理者とすり合わせを行いますが、よくある困りごととして、「スタッフが個人的な目標を設定し、組織が求めている成果や努力と食い違ってしまう」という事象が挙げられます。

これらを一人ひとりとすり合わせていくのは管理者の負担が大きいため、最初に目標設定のレールをある程度敷いておくことをお勧めします。

目標設定の前に、組織が期待していることを大まかで構いませんのでスタッフに伝えておき、それをもとに目標設定をしてもらうようにすると、すり合わせが微修正で済みます。

もう一つの方法としては、個人目標と組織目標を分けて設定することです。

スタッフ本人が個人的に頑張りたい目標は「個人目標」として立ててもらい、同時に「組織目標」として組織が期待するスタッフの成果や行動に関する目標を立てます。その上で組織目標に高い比重を置きつつ、両方を評価対象とする方法です。

評価方法のポイント

人事評価における評価項目をどのように評価に反映するかは、組織が何を重視するのかをスタッフに示すことでもあります。

例えば、「スタッフの努力は勘定に入れず、どれだけ成果を出したか」だけを重視する配分にすれば、実力主義の組織であることをスタッフに示すことになります。逆に、「成果につながったかどうかによらず、どれだけ頑張ったか」を重視する配分にすれば、結果だけでなく過程も大事にする組織であることを示すことになります。これらの影響も考慮して、各評価項目をどのように評価するのかを決定していきます。

また、評価のプロセスは、スタッフが感じる公平性と納得感に非常に大きく影響します。スタッフに公平性と納得感を持ってもらうために、まずはスタッフ自身に自己評価を行ってもらい、振り返る機会を与えて自身の成長と課題に意識を向けてもらいます。

それを踏まえ、管理者は認識が一致している部分とズレている部分を面談ですり合わせていきます。

すり合わせの際は、なんとなくの印象ではなく事実に基づいて評価を行わなくてはいけません。事業所内での立ち居振る舞い、記録、利用者や関係者からの声、遅刻や提出物の遅延などを根拠とします。

その他、管理者などの昇格に関する要件を決める際には「レッドカード条項」を設けるのがお勧めです。

レッドカード条項とは、昇格を検討する際に「その条項に当てはまる者は登用しない(場合によっては、登用後でも降格する)」と明記したものです。

持つ権限が大きくなればなるほど組織への影響力は大きくなるため、権限を持つ者が組織にとって望ましくない行動を取っていたら組織が崩壊してしまいます。

そのため、レッドカード条項を作成し周知することで、組織に対するネガティブな行動への断固たる姿勢を全員に示すとともに、管理職候補の組織行動に対する意識を高めることができます。

レッドカード条項の例

  • ハラスメントに該当する行為が見られる

  • 規則違反をしている

  • 組織に対してネガティブな発言、組織批判が聞かれる

  • 他責と受け取れる発言が聞かれる

おわりに

人事評価制度は、正しく設計できればスタッフの着実な成長と組織の理念実現を同時に叶えてくれるツールとして機能します。最初から正しく設計できるわけではないため、一度作成して終わりではなく、運用しながらチューニングしていくことで真価を発揮します。

本記事で解説したポイントをもとに、皆様の事業所にとって最適な人事評価制度の設計を見出していただければ幸いです。

【参考文献】

坪谷 邦生(2020)図解 人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ.ディスカヴァー・トゥエンティワン.
株式会社フィールドマネジメント・ヒューマンリソース(2021)図解でわかる戦略的人事制度のつくりかた.ディスカヴァー・トゥエンティワン.

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