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スタッフの活躍と組織の成果につながる報酬設計のポイント

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スタッフの活躍と組織の成果につながる報酬設計のポイント
EMPAWA株式会社 佐藤文俊

EMPAWA株式会社 佐藤文俊

新潟大学医歯学総合病院を経て訪問看護に従事。副所長や診療看護師(NP)を経て、教育・組織支援にも尽力。現在はEMPAWA株式会社代表として、訪問看護におけるナレッジマネジメントを中心に、業界全体の底上げを目指して活動中。S-QUE訪問看護チーフプランナー。

目次

はじめに

給与を上げれば人が定着し、インセンティブを導入すればモチベーションが上がると思い、報酬を設計してみたけれども、思ったほど効果を感じられなかった。 そんな経験をしたことのある方は、この記事が参考になるかもしれません。

報酬とは本来、金銭だけで語れるものではなく、スタッフが働くうえで満たしたい欲求と深く結びついています。 そのため、金銭的報酬だけを充実させても、人によっては響かず、むしろ望ましくない影響が生じることもあります。

この記事では、報酬の副作用を理解したうえで、自社に合った仕組みをどのように組み立てていくのか、その考え方とヒントを整理していきます。

報酬とは何か

報酬というと、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。 賃金やボーナス、福利厚生などが真っ先に思い浮かぶと思います。 しかし、そのような金銭的報酬だけが報酬というわけではありません。 やりがい、成長感、仕事の面白み、どんな環境や仲間と、どのようなスタイルで働けるのかといった非金銭的報酬も、働くスタッフにとって重要な報酬です。 つまり、報酬設計について考えるとき、金銭的報酬と非金銭的報酬の両面から考える必要があります。

人材マネジメントにおける報酬の説明

※張佳(2013).貢献主義と従業員のモチベーションの関係.名城論叢 第14巻第3号190を参考に筆者作成。

報酬と欲求は強く結びつく

報酬の全体像がイメージできたところで、次にどうやって効果につながる報酬設計をすればいいのかについて、一緒に考えていきたいと思います。

みなさんは、給与を上げているのにスタッフのモチベーションが上がらなかったり、定着せず離職してしまったりした経験はないでしょうか。

その状況は、非金銭的報酬についての視点を持てば解決の糸口を見つけることができるかもしれません。

金銭的報酬を高める、もしくは、すでに高い水準であるにも関わらずスタッフが離職する場合、金銭的報酬をさらに高め充実させたとしても、おそらく効果は薄いでしょう。

その理由は、報酬と欲求は強く結びついており、欲求は人それぞれだからです。

社会に大きく貢献できるところで働きたい、自分が成長できるところで働きたい、自分の地位が高くなるところで働きたい、居心地が良いところで働きたいなど、人それぞれに様々な欲求があります。

お金を稼ぐことに強い欲求を持っている人には金銭的報酬を充実させることが効果的ですが、そうではない人にとっては、いくら高い金銭的報酬を得られるとしても魅力的ではありません。

スタッフが仕事に対して持っている欲求を知り、その欲求に応じて非金銭的報酬の側面も含めて報酬設計をすることが重要です。

一つ、勘違いしてはいけないのは、非金銭的報酬にあたる部分に魅力を感じるスタッフばかりだからといって、金銭的報酬は低くて構わないかというと、そうではありません。

スタッフも生活をしていかないといけないので、経済面において背に腹は代えられません。最低でも金銭的報酬は業界平均以上であることが重要です。

報酬の副作用に気を付ける

報酬を設計する場合には、報酬がもたらす副作用についても知っておかなくてはいけません。

以下に、代表的なものをご紹介します。

報酬は罰になる

報酬を与えるとき、報酬を受け取る側に「自分はコントロールされている」という感覚を生じさせてしまうことがあります。

さらに、期待していた報酬が得られなかった際には、失望につながったり、罰を与えられたような感覚に変わってしまったりすることがあります。 そのため、報酬を与える場合には注意が必要です。

報酬は人間関係を破壊する

報酬をめぐる競争は、「あの人よりも自分のほうが頑張っているはずなのに、自分のほうが給与が低い」などといった嫉妬や不満を生むことがあります。

結果として、仲間であるはずのスタッフは協力する相手ではなく競争相手だと考えるようになり、社内の雰囲気がギスギスしたり、助け合いが失われてしまったりすることがあります。

報酬は理由を無視する

人は報酬を得るために行動するようになると、「なぜその行動が必要なのか」という本来の意味まで考えなくなります。 ただ報酬を得るためだけに求められている行動をしてしまうため、本質的な成長にはつながりません。

報酬で行動を強制するということは、見かけだけしか変わらず成長を阻害する可能性があるということを知っておかなくてはいけません。

報酬は冒険に水をさす

目標達成による報酬が基準になると、人は報酬が得られるだけの最低限の仕事を選びやすくなり、それ以上の工夫や挑戦には踏み出さなくなります。

新しい方法を試したり、必要以上に探究したりする意欲が削がれてしまいます。

報酬は興味を損なう

報酬があることによって、本来は報酬がなくても自ら行っていたようなことに対して、興味を損なうことがあります。 これを心理学では、アンダーマイニング効果と言います。

好きで始めたことでも、外側から報酬が付くと、いつの間にか興味そのものが薄れ、やらされ感が出てきてしまう場合があり、注意が必要です。

報酬を再設計する流れ

報酬設計を考え直す際に、よくあるのが「A事業所でやっている取り組みが上手くいっているから、自社にも取り入れよう」という流れです。 これは、上手くいかないことが多いです。 なぜなら、職場ごとに集まっている職員の性格傾向や、作り上げられている組織風土が異なるからです。

ある事業所で効果があった取り組みが、自社にそのまま当てはまるというわけではありません。 参考にすることは重要ですが、その際は必ず、取り組みの内容だけでなく、どういう課題があって、どういう分析をして仮説を立て、取り組みを行った結果、効果があったのか(何を「効果があった」と定義したのかも含めて)構造を捉えて考えることが重要です。

では、報酬設計を考え直す際は、どのように考えを進めていけばよいのでしょうか。

まずは、報酬を考え直したいと思った理由を明確にして、「なんのために報酬を設計するのか」をはっきりさせましょう。

報酬を再設計したいと考えた背景には、必ず頭を抱えている困りごとがあるはずです。

  • スタッフが定着しない

  • スタッフのモチベーションが上がらない

  • 良いスタッフを採用できない

  • ケアの質が悪くクレームが多い

など、様々な困りごとがあると思います。

それらを解決するには、どのように報酬を再設計し、(あるいは、本当に必要なのは報酬の再設計なのか、も含めて)再設計後にどのように評価するかを決定します。

評価方法を決めておかなくては、たいていの施策はやりっぱなしになってしまいます。

必ずどのように評価をするか、いつ評価するのかを決めておきましょう。

報酬の再設計について考える前に、以下のような項目を事前にチェックしておきます。

  • 給与や賞与は、業界水準と比べてどうか

  • スタッフは、何を期待して入社したのか

  • スタッフが仕事に求めていることは、何か

  • スタッフは会社のどんなところが好きなのか

これらを事前にチェックすることで、報酬を再設計する際に、どの部分を重点的に設計し直せばいいのかイメージしやすくなります。

具体的に、どのように報酬を設計するのか

では、具体的に、どのように報酬を設計していけばいいのでしょうか。 方法は様々ありますが、以下に代表的な着眼点をご紹介します。

まずは以下を参考に、自社で取り組めそうなことを考えてみてください。

公正に評価と金銭報酬を結びつける土台を作る

事業は慈善ではないので、ただで報酬を与えるわけにはいきません。スタッフが組織に貢献してくれた内容を評価して報酬に結びつけます。

この金銭的報酬が、単なる年功序列で設計されている場合、ただ長く職場にいるだけのスタッフが、組織貢献に奮闘しているスタッフの給与よりも高くなり、報われない若手層が生まれることになります。

それは、優秀な若手が離職するリスクを高め、組織発展の停滞につながります。

組織に貢献していることを測定するための項目を定義し、人事評価面談を通して公正に評価をして金銭的報酬と結びつけることで、金銭的報酬の納得感が高まり、組織貢献に奮闘しているスタッフの定着やモチベーション向上につながります。

具体的な人事評価制度の構築方法は次回の記事で解説します。

件数のインセンティブは、ほどほどに

訪問件数によって、『〇件を超えたら1件△円』のようにインセンティブを設けている事業所も多いかと思います。 しかし、それで稼げるようにしていくことにはリスクがあることを知っておかなくてはいけません。 件数のインセンティブで稼げるようにするということは、このような考えが生まれやすくなります。

  • 「難易度の高い訪問に行けるから1時間以上の訪問が多く、病状が安定している30分訪問ばかり行っている人よりインセンティブが低くて割に合わない。」

  • 「インセンティブが下がるから、長時間訪問や移動距離が長い訪問には行きたくない。」

  • 「医療依存度の高い利用者は調整業務が多くて大変なのに、そこは評価されない。」

  • 「件数を多く行きさえすれば高い給与をもらえるから、自己研鑽なんて意味がない。」

件数を成果として評価し過ぎるということは、組織にとって重要な他のことがないがしろにされるリスクがあるため、件数のインセンティブは高く設定しすぎず、スパイス程度に抑えておくべきです。

福利厚生に想いを込める

皆さんはすでに様々な福利厚生を用意していると思いますが、それらは、どれだけスタッフにとって魅力的なものになっているでしょうか。 福利厚生は、法律の範囲内であれば、ある程度自由に会社が設定できるものです。 ありきたりなものよりも、会社のスタンスやメッセージを込めたユニークなものを用意することで、スタッフの会社への愛着も変化していきます。

例えば、大和ハウスでは、親孝行支援制度というものを導入しています。 年4回を上限として、介護のために親元へ帰省する際に距離に応じた金額を補助するものです。

また、株式会社Cygamesでは健康サポート制度として社内のリラクゼーションルームで無料で整体を受けられたり、希望すれば、始業前に週1回の朝ヨガ、就業後に週2回の筋トレを受講することもできるそうです。

重要なのは、ユニークな福利厚生を用意することではなく、その福利厚生にどんな思いが込められているのかです。

会社名は忘れてしまいましたが、社長が親孝行手当を導入した理由として、先代社長だった父親とは意見が合わず対立してしまった後、父親の立場や意見を理解できるようになって「親孝行したいな」と思い始めた矢先に父親が脳卒中になってしまい、親孝行ができなくなった経験をもとに、「いつ親孝行できなくなるか分からないから、社員には親孝行できるうちに親孝行してほしい」という想いから親孝行手当を導入したという会社があるとTVで見ました。

私はこのエピソードを聞いたときに、この社長のもとで働いている職員は、どんなに幸せだろうと感動したのを今でも鮮明に覚えています。

このように、福利厚生に想いを込めた制度を導入することで、会社のスタンスを示すことができます。

様々なキャリアパスを用意する

スタッフのなかには、自分がどれだけ高い地位に就けるかを重視するスタッフもいれば、管理職などに昇格するのではなく、現場でスペシャリストとして長く研鑽していきたいというスタッフもいます。 そのため、単線的なキャリアパスではなく、複線的なキャリアパスを用意し、スタッフが仕事に求める欲求に幅広くフィットするように設計することが重要です。

素晴らしい実践・行動は表彰する

職場で見られているスタッフの素晴らしい実践や行動は積極的に表彰することがおすすめです。 表彰制度によって、どのような実践・行動が評価されるのかが分かりやすくなり、表彰されたスタッフにとっては全員の前で表彰されることで自分の頑張りが公式に認められる機会になり承認欲求が満たされます。

ポイントは表彰の報奨金は高額にし過ぎないことです。前述したように、報酬は興味を損なうという副作用がありますので、報酬を高くし過ぎることで、誰にも言われなくても進んで行っていたことが、外発的動機付けによって動くようになってしまう可能性があります。

そのため、報奨金は5千円~1万円程度の寸志にすることをおすすめします。

様々な役割を用意し与える

組織で役に立てる、もしくは活躍できる場面があることで、貢献欲のあるスタッフはモチベーションが高まります。

そのため、管理者がなんでもやるのではなく、教育役としてプリセプターの役割を用意したり、期間限定のプロジェクトを立ち上げてリーダーを任命したり、業務に必要な知識(例えば制度に関することやIT関連など)に詳しい人を〇〇リーダーのように任命するなどが考えられます。

最近では、SNSの広報を得意なスタッフに任せることも多くの事業所で行われているようです。

成長できる環境を用意する

成長意欲が高いスタッフは、「自分がこの環境にいることで、どのような経験ができ成長できるのか」が重要な関心ごととなります。

このようなスタッフは貢献意欲も高いことが多く、組織にとっては重宝する存在になるため、離職せず定着し続けてもらうことは極めて重要です。
社内研修を充実させたり、外部研修や学会参加、書籍購入の補助を出したりなど、成長できる環境を整えましょう。

社内研修を整える余裕がない場合には、eラーニングサービスを導入するという選択肢もあります。S-QUE訪問看護eラーニングは1事業所あたり月額11,000円で認定・専門看護師が講師を務める700コンテンツ以上のeラーニングを導入できるので、すぐに低予算で教育体制を整えたい事業所にはおすすめです。

様々な活動ができる場を用意する

訪問看護を仕事に選ぶ方は、地域づくりに関心のある方が非常に多くいます。 そのため、地域でイベントを行うことや地域住民と交流できる機会を企画することは、そのようなスタッフの自己実現欲求を満たすことにもつながります。

そのうえ、事業所が地域に馴染むきっかけにもつながるため、このような活動を積極的に行うことは短期的に直接的な利益にはつながらないものの、最終的には地域の様々なステークホルダーと信頼関係を築くことができ、長期的な利益につながります。

おわりに

報酬設計は金銭的な側面だけでなく、スタッフが何を求めて働いているのか、どんな環境なら力を発揮できるのか。そこに向き合うことが重要な鍵となります。

非金銭的な報酬にまで視野を広げて施策を考えることが、結果につながる報酬設計をするためのコツになりますので、本記事でご紹介した内容を参考に、組織にとって最適な施策は何か試行錯誤を重ねてみてください。

【参考文献】

張佳(2013).貢献主義と従業員のモチベーションの関係.名城論叢 第14巻第3号,183–197
久保田康司(2019)上司の自律性支援とコーチングが部下の動機づけに与える影響.文眞堂
大和ハウス工業株式会社(2015年3月27日)「生涯現役制度『アクティブ・エイジング制度』/介護支援制度『親孝行支援制度』導入」プレスリリース.https://www.daiwahouse.co.jp/release/20150327094033.html
CygamesHP.https://fresh.cygames.co.jp/benefits_06/

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