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訪問看護DXの新たな展開へようこそ

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訪問看護DXの新たな展開へようこそ
感護師つぼ 坪田康佑

感護師つぼ 坪田康佑

看護師・保健師、国会議員政策担当秘書等の国家資格をもつ看護ジャーナリスト。慶應義塾大学看護医療学部を卒業後、米国Canisius大学MBAを取得。国際医療福祉大学医療福祉ジャーナリズム分野博士課程在籍。ETIC社会起業塾を経て無医地区への医療提供体制づくりに尽力し、診療所や訪問看護ステーション、医療AI会社などの全事業を承継。現在は、看護雑誌等で「訪問看護の事業承継」や「イノベーション看護」などの連載や講演、看護DX支援に取り組む。また看護師のユニークなキャリアを紹介する「アクティブナース図鑑」を運営。

目次

2024年6月の診療報酬改定で、「訪問看護医療DX情報活用加算」が登場し、訪問看護の世界でも最近、「DX」という言葉を耳にする機会が増えました。一昔前は「デラックス」としか読まれなかったこの略語ですが、現在では「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を意味します。

頭文字を取ると「DT」になるはずですし、「デラックス」のようにエックスという音がないのに、なぜ「DX」と略されるのかと疑問に思う方も多いでしょう。

なぜ「DX」なのか?

「デジタルトランスフォーメーション」が「DX」と略される理由は、クリスマス(Christmas)が「Xmas」と略されるのと同様に、欧米圏の慣習が原因です。

「Trans」には「~を横断する」という意味があり、同義語の「Cross」を略す際に使われる「X」が略称として用いられるようになりました。デジタルトランスフォーメーションという言葉は長いため、一般的には略称のDXが普及しています。

日本でも、看護師(Nurse)を「Ns」と略しますよね。これと同様です。ちなみに、海外では「Ns」という略語は一般的ではなく、「RN(Registered Nurse)」や「Nurse」と表記されることが多いです。日本独自の略語である「Ns」は、日本国内の看護師間で広く使われている一方で、国際的には通用しない場合があるため、注意が必要です。

DXの本質とは?今までと何が違うの?

これまでもIT化、デジタル化やICT化、似たようなことを言われてきたと思います。正直、どれがどの意味なのか今までは、あまり変化がありませんでした。

しかしながら、DXは根本から意味が違います。せっかくなので、各意味の歴史的変遷を踏まえて説明します。

IT化

手作業で行っていた業務を情報技術(Information Technology)を使って効率化、自動化することです。例えば、自動送信されるメールシステムの導入などがIT化に当たります。1980年代から1990年代にかけて、コンピュータの普及と共にひろまっていきました。

デジタル化

紙などのアナログ情報をデジタル形式(Digitization)に変換することです。

例えば、レントゲン写真をデータに変換することがデジタル化の一例です。これは、1990年代から2000年代初頭にかけて、主に情報の保存と管理のために進められるため、使われるようになりました。

ICT化

情報通信技術(Information and Communication Technology)を活用して情報の伝達とコミュニケーションを改善することです。これには、電話やFAXからチャットやオンライン会議への移行が含まれます。

2000年代以降、インターネットの発展に伴い、通信技術と情報技術の統合が進み、ICT化という言葉が使われるようになりました。

これらの技術導入は、特定の業務やプロセスの効率化に焦点を当てています。しかし、DXはそれ以上のものです。個々の技術を取り入れるだけでなく、全体を再構築するのがDXなのです。この全体再構築に、国として日本全体として取り組んでいっているので、この流れにのる必要があるのです。

「訪問看護のICT化」について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

DXの重要性とその背景

少子高齢化が進み、労働者人口どころか人口そのものが減少している日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めないと社会や経済が立ち行かなくなるという懸念が広がっています。

経済産業省は2018年9月に「DXレポート」を提出し、DXの必要性を強調しました。このレポートでは、DXが進まないと2025年には12兆円の損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。そのような背景から、日本はDX化を急ピッチで進めています。

厚生労働省の動き

厚生労働省は2018年のDXレポート以降も、「ICTを活用した在宅看取りに関する推進事業」「看護師等養成所におけるICT等の整備」「機器等の活用による看護業務効率化促進事業」など、「DX」ではなく「ICT(情報通信技術)」や「業務効率」という表記を使用していましたが、2022年5月に自由民主党政務調査会社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部が「医療DX令和ビジョン2030」を発表し、9月には、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームが設立し、DXという表現を取り入れました。

これにより、個別の業務効率化から全体改革へと乗り出していきました。

そして、2023年7月には「医療DXの推進に関する工程表」を発表し、医療分野でのDX化の流れが本格化しました。看護分野におけるDX化の流れはその後、2023年9月に日本学術会議が「持続可能な社会に貢献する看護デジタルトランスフォーメーション」という報告書を発表したことで加速しました。これに続き、厚生労働省も2024年4月から「看護現場におけるDX促進事業」に新設予算を割り当て、具体的な取り組みが始まっています。

さらに、2024年の診療報酬改定では「訪問看護医療DX情報活用加算」が新たに加わり、訪問看護の現場でもDXが積極的に推進されています。これは、訪問看護におけるデジタル技術の活用を奨励し、患者ケアの質向上と業務効率化を図るためのものです。

「訪問看護医療DX情報活用加算」について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

訪問看護DXとは?

訪問看護DXは、単なる技術導入を超え、訪問看護ステーション全体の運営モデルや業務プロセスを根本的に再設計することを目指します。

例えば、生成系AIを活用し、日々のバイタルデータから看護記録の下書きを作成することや、看護記録から訪問看護報告書の下書きを作成すること、指示書と患者情報から訪問看護記録の下書きを自動生成することなどが挙げられます。

さらに、医療AIを活用した例として、鳥取大学が研究した画像診断AIによる褥瘡進行度の判断や、長野県看護大学が研究した画像診断AIによる褥瘡の早期発見などがあります。

画像だけではなく、動画分野でも、国立循環器病研究センターが富士通系列と歩き方で認知症早期発見AIを研究するなど、様々な医療AIが誕生してきます。

また、訪問看護の電子カルテを活用して他の施設や医療機関と情報共有やアクセスを容易にすることで、業務の効率化と患者ケアの質向上を図る取り組みも進められています。例えば、HITO病院ではGoogle Glassを利用した皮膚科専門医による褥瘡診断が行われています。

訪問看護DXの海外事例

ティール組織(マネージャーのいない組織)として有名なオランダの「Buurtzorg(ビュートゾルフ)」は、訪問看護DXの参考になる活動をしています。

ビュートゾルフのマネジメントスタイルの基盤となっているのが、「Buurtzorg Web」というツールです。これは以下の機能を持っています。

ビュートゾルフの機能 機能の詳細
コミュニティ機能 チーム内のコミュニケーションの基盤となる機能
患者管理機能 患者の記録、アセスメント、評価を行う機能
タレントマネジメント機能 看護師の勤務時間、スケジュール、同僚からの評価や
改善点を記録する機能
ダッシュボード機能 患者数や患者満足度からチームの機能、ケアの全体把握を可能にする機能
オンライン動画研修機能 スキルや専門知識を学ぶための映像教材を提供する機能

オランダは1990年代に健康保険制度に自営業である看護師を組織化するというアイデアを組み込みました。それで在宅ケアが普及していきました。

規模が大きくなるにつれて、業務効率化として患者の自宅玄関ドアにはバーコード付きのステッカーが貼られ、看護師は訪問が終わるたびにバーコードをスキャンし、そのデータを中央のシステムに記録して遠隔地から監視・分析するスタイルを取っていました。

しかし、効率的ではあったものの、効率化が重視されすぎ毎日違う看護師が訪れるスタイルになっていきました。そうなると、患者と看護師の個人的な信頼関係が失われ、医療水準も低下していきました。そして、看護師は患者のケアに責任を持てず不満を抱え、同僚とのいさかいが絶えなくなりました。

ケアを求めている人々を看護するためにこの仕事を選んだのに、その期待に応えられていないことにジレンマを感じ、自分たちのしていることが看護師の職を愚弄していると感じるようになった人さえいました。

ビュートゾルフは、表面的なシステムによる効率化だけではなく、それらの問題点を解決するための仕組みを作りシステム化していき、世界に誇るものになりました。

日本の訪問看護DX、今後どうなる?

医療DX令和ビジョン2030において、訪問看護で特に意識すべき点は3つあります。

①電子カルテ情報の標準化と②全国医療情報プラットフォームの創設、そして診療報酬改定の③訪問看護医療DX情報活用加算です。

1. 電子カルテ情報の標準化

電子カルテの標準化とは、Webサービスの技術を用いて医療情報を交換する際の国際標準規格であるHL7FHIRを活用し、厚生労働省が標準コードや交換手順を定めることです。

一見、訪問看護事業所には関係ないように見えますが、この標準化が進むことで、介護事業所などへも医師が許可した電子カルテ情報の共有が可能になります。特に医療情報の連携が必要となる訪問看護においては、標準化された後に訪問看護カルテで電子カルテ情報が利用できるようになるなどの連携が期待されます。

2. 全国医療情報プラットフォームの創設

全国医療情報プラットフォームは、連携をスムーズにするためのプラットフォームを作成することです。今まで各医療機関や自治体などでバラバラに管理されていた患者情報をネットワークを通じて閲覧・共有できるようにするものです。

レセプト請求や保険加入確認のために、全国の医療保険者と医療機関・薬局の間で構築されたオンライン資格確認等システムのネットワークを発展・拡充させることで、レセプトや特定健診、予防接種、電子処方箋、自治体検診、電子カルテなどの医療全般の情報を共有・交換できるようにしていきます。

これにより、紙の紹介状のやり取りが不要になり、患者の病歴や予防接種歴の確認が容易になります。

医療DXの推進に関する工程表では、このような連携が2025年度までは機能や実施自治体を拡大し、2026年度から全国的に運用されることを示しています。

3.訪問看護医療DX情報活用加算

2024年の診療報酬改定で新設された「訪問看護医療DX情報活用加算」は、オンライン資格確認を通じて利用者の診療情報を取得し、訪問看護の実施に関する計画的な管理を行うものです。

この加算は「DX」という名前を使っていますが、業務の再構築に直接繋がっているわけではありません。むしろ、医療DX令和ビジョン2030を達成するための環境づくりとして位置付けられています。

訪問看護DXの本質

訪問看護DXの本質は、訪問看護ステーション全体の業務プロセスと運営モデルを再構築し、技術を最大限に活用して患者ケアの質と効率を向上させることです。

日本政府や各省庁が取り組んでいく層のDXもありますが、各ステーション組織単位で実施していくべきDXも多々あります。

さきほど紹介した生成系AIによる看護記録や画像診断AIなどもありますが、それ以外にも、看護師のシフト表作成AIや共有してくれるシステムや看護記録の音声入力、患者の状況と看護師の能力と住所情報を考えて訪問ルートを考えてくれるAIや遠隔リハビリシステムなど、いくらでも挙げられます。

是非とも、あなたの所属する訪問看護ステーションの働き方をDXを用いて再構築し、患者にとってより良いケア、看護師にとってより働きやすい環境を作っていってみてください。

訪問看護DXを導入するために必要な土台作りとは?

看護DXの導入にはステップがあり、それを無視するとスタッフが求めていないツールを突然導入することになります。これにより、新しいことを覚える手間がかかり、結果としてツールが活用されなくなることがあります。

ハーバードビジネススクールのセダール・二ーリー教授は、「従業員が個人に期待するDXと組織に期待するDXでは軸が異なる」と提唱しています。

従業員が「個人も職場も良い方向に変わるんだ!」と理解・納得している場合、意欲的にDX化に取り組みますが、理解や納得が得られない場合は、DXを活用した新しい運用体制の浸透が難しいとされています。

筆者は、DX思考を理解してもらうための研修を推奨しています。まずはDX思考を理解し、その上で業務を把握し、DX思考で業務を見ることで課題が明確になります。その課題に対してDXで解決する形で実行します。

DX思考がないと、「今まで手書きでやっていたのだから何が問題なの?」となり、DXの導入が進みません。まずは、DX思考を土台として考え、理解と納得を得ることが重要です。

DX導入のための研修には、助成金がおススメ

厚生労働省は、DX化を推進するための研修を受講するのに「人材開発支援助成金」という1人当たり30万円以上の補助金を提供しています。

しかし、この助成金を知っても、ステーション運営や人事対応などで忙しかったり、顧問の士業の方の専門外だったりすると、なかなか手続きを進められないこともあるでしょう。

そこで、筆者は助成金をスムーズに取得できるように、社労士法人と提携し、助成金取得の工数と金額を負担する支援を行っています。これにより、看護師自身がDX化の負担を感じずに取り組める環境を整え、事務に依存せずに進めることができるようにしています。看護師の笑顔のために、DX化の推進を支援し続けています。

訪問看護におけるDXの導入事例

ここからは、筆者の友人が運営する訪問看護ステーションが取り組んだ訪問看護DXの事例をご紹介します。友人のステーションでは訪問看護のスケジュール管理に課題を感じており、筆者が「ZEST」というサービスについて情報提供を行ったところ、実際に導入し業務効率化が実現したようです。

訪問スケジュール管理「ZEST」の導入

ガラケー時代から訪問ルート作成ソフトは存在していましたが、看護師同士の相性や技術力、患者の重症度などを考慮できず、結局は手作業での調整が必要でした。そのため、当時は使わなくなることも多かったようです。

そんな中、訪問看護のスケジュール管理ソフトの「ZEST」がDXとして大幅にアップデートされたと聞いた友人は、ステーションで導入を開始しました。「ZEST」はDX(デジタルトランスフォーメーション)を意識しており、従来の課題を克服する高度な機能を備えています。

このソフトは、スタッフのシフト管理、利用者情報整理、住所確認、ルート作成、担当者割り当て、全スタッフへの共有、 対応可能なルートの組み直し、最終版ルートの保管といった業務を電子カルテと連携し、自動的に処理します。特に情報共有は各スタッフの端末で瞬時に行われ、変更対応もAIが提案してくれるため、手間が大幅に削減されたと聞きました。

また、アラート機能でミス防止や、空き時間・経営数値の見える化、多職種連携も可能になったことでスケジュール管理のみならず、ステーション運営全体の効率化が進みました。

さらにZESTはスケジュールが記録・請求システムの「カイポケ訪問看護」と連携できるので、これらのソフトの導入により一連のステーションの業務が効率化され、DXが実現したと感じたようです。

この新しいソフトの導入により、ルート作成だけでなく移動時間やレセプト請求時間も削減され、管理者が本来の業務に集中できるようになりました。また、看護師の希望や技術力が公平に考慮され、急な変更にも迅速に対応できるため、働きやすさが向上しました。

DXを活用したこのソフトは訪問看護の現場で大いに役立ち、今後もさらなる機能改善と普及が期待されています。

まとめ

訪問看護のDX化は、業務の効率化と患者ケアの質向上を目指す上で避けられない道です。例えば、在宅での装着型ロボットの導入により、パーキンソン病で立てなかった人が立てるようになるといった効果が見られています。このように、今まで施設内でしか使用されていなかったロボットが、在宅現場にも導入され始めています。また、研究や実証実験段階ではありますが、褥瘡早期発見AIやGoogle Glassを用いた遠方にいる皮膚科医との連携による褥瘡遠隔診断支援なども登場しています。

新たに出てくるサービスはDXを意識し、情報連携が進められます。しかし、DX化が進んでいないと、逆に新たな作業が増え、大きく時間を要することになります。DXは訪問看護ステーション全体の業務プロセスと運営モデルを根本的に再設計し、看護師の働きやすさと患者へのケアの質を向上させます。

筆者が提供するDX研修では、具体的な事例を交えながら、DX思考の理解と実践をサポートしています。訪問看護DXの導入に関するご相談や研修については、筆者が運営する「アクティブナース図鑑」の問い合わせフォームにご連絡ください。私たちの支援を通じて、訪問看護の現場がさらに進化し、質の高いケアが提供されることを期待しています。

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