精神科訪問看護ステーションは儲かるの?精神科に特化するメリット・デメリットとは?
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株式会社エス・エム・エス カイポケ訪問看護マガジン編集部
看護師や介護事業所の運営経験者、訪問看護の請求ソフトや電子カルテの導入支援経験者など、医療や介護、訪問看護の現場理解が深いメンバーが在籍。訪問看護ステーションの開業、経営、日々の看護業務に役立つ情報を発信します。
目次
地域における訪問看護ステーションの不足を感じ、訪問看護ステーションの開業を考えている皆様は、「高齢化が進んでいるから、介護保険を中心とした訪問看護ステーションがいいのかな?」、「競合になる事業所数が少ない精神科に特化した訪問看護ステーションがいいのかな?」といった経営方針に関するお悩みを抱えているのではないでしょうか?
この記事では、精神科訪問看護ステーション経営は儲かる事業なのかどうか、精神科に特化した場合のメリットやデメリットについて詳しく説明しています。
精神科訪問看護ステーションとは?
精神科訪問看護ステーションとは、精神疾患を抱える患者さんに対する療養支援、医療行為を中心に提供するステーションを指します。
そもそも、精神科訪問看護ステーションは、一般の訪問看護ステーションとどのような違いがあるのでしょうか?
一般の訪問看護ステーションの場合、身体の傷病によって療養が必要、あるいは高齢になり身体活動が低下し介護が必要と判断された方に対して日常生活の療養介助や医師の指示に基づいた医療行為を行います。
一方で精神科訪問看護は、精神疾患により日常生活の活動が低下し療養支援が必要と判断された患者さんに対して医師の指示に基づいた医療行為を行います。
精神科訪問看護ステーションを開業するためには?
厚生局への届出
精神科に特化した訪問看護ステーションを開業するためには、通常の指定申請に加えて、別途「精神科訪問看護基本療養費届出書」を、事業所が所在する地域の厚生局に提出する必要があります。
精神疾患を有する者に対する看護について相当の経験を有する職員を配置すること
精神科訪問看護基本療養費を算定する場合には、下記のいずれかに該当する職員(保健師、看護師、准看護師、作業療法士)を配置し、サービスの提供を行わなければいけません。
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精神科を標榜する保険医療機関において、精神病棟または精神科外来に勤務した経験が1年以上ある
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精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験が1年以上ある
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精神保健福祉センターまたは保健所等における精神保健に関する業務経験が1年以上ある
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国、都道府県または医療関係団体が主催する精神科訪問看護に関する知識・技術の習得を目的とした20時間以上あり修了証が交付される研修を修了している(研修とは以下内容を含む)
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精神疾患を有する者に関するアセスメント
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病状悪化の早期発見、危機介入
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精神科薬物療法に関する援助
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医療継続の支援
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利用者との信頼関係構築、対人関係の援助
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日常生活の援助
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多職種との連携
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GAF尺度による利用者の状態の評価方法
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(参考:令和4年度集団指導(訪問看護療養費等について)|厚生労働省)
精神科訪問看護ステーションは儲かるの?
結論は、「精神科に特化してもすべての訪問看護ステーションが黒字化できているわけではない」となります。
精神科を受診する患者さんは年々増加傾向にあり、退院後に自宅で療養が必要な方も増えています。実際に2017年から2021年の5年で、精神科訪問看護を算定している事業所数は2,569ヶ所から4,915ヶ所と、およそ2倍になっています。
(参考:訪問看護療養費実態調査|e-Stat)
このようにニーズがあり、事業所数が増えている状況ではありますが、精神科訪問看護が必要な患者数の推移などは地域によって特徴や変動があります。利用者数の減少により赤字経営となってしまう可能性があるので、事業所の地域の特性や介護報酬、診療報酬の算定状況に合わせて経営戦略を立てることが大切です。
精神科訪問看護ステーションと一般の訪問看護ステーションの違い
次に一般の訪問看護ステーションと異なる点について、報酬算定に関わるポイントに絞って解説します。
精神科訪問看護と一般の訪問看護の職種の違い
一般の訪問看護ステーションの場合、訪問看護を実施する医療従事者は看護師、准看護師、保健師、助産師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の7つの職種です。医師から指示を受けた内容に合わせて担当者が療養支援を行います。
けがや手術後の経過、加齢による身体的活動が回復しない状態の利用者に対して運動訓練や食事訓練といった身体のリハビリテーションを行うような場合には、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が訪問し療養支援を実施します。
一方で精神科訪問看護の場合、訪問看護を実施する医療従事者は看護師、准看護師、保健師、作業療法士の4つの職種です。
一般の訪問看護と異なり、精神科訪問看護の場合は、対象者にけがや手術、加齢などによる身体活動の低下はないため、理学療法士や言語聴覚士のケアは対象になりません。作業療法士は、統合失調症や双極性障害などの精神疾患をお持ちの方で日常生活の細かい動作ができない患者さんに対して作業療法を行うことができます。
精神科訪問看護と一般の訪問看護の書類・様式の違い
一般の訪問看護ステーションと同様に、精神科訪問看護ステーションでも「訪問看護計画書」や「訪問看護記録書」、「訪問看護報告書」などの書類を作成する必要がありますが、使用する様式に違いがありますので見ていきましょう。
一般の訪問看護 | 精神科訪問看護 | |
訪問看護計画書 | 訪問看護計画書(別紙様式1) | 精神科訪問看護計画書(別紙様式3) |
---|---|---|
訪問看護報告書 | 訪問看護報告書(別紙様式2) | 精神科訪問看護報告書(別紙様式4) |
訪問看護記録書 | 訪問看護記録書Ⅰ(参考様式1) 訪問看護記録書Ⅱ(参考様式2) |
精神科訪問看護記録書Ⅰ(参考様式3) 精神科訪問看護記録書Ⅱ(参考様式4) |
精神科訪問看護の書き方・記入例を詳しくご覧になりたい方は、下記の記事(精神科訪問看護の計画書、看護記録Ⅰ・Ⅱや報告書の書き方と記入例)をご参照ください。
精神科訪問看護基本療養費と訪問看護基本療養費の違い
一般の訪問看護ステーションと精神科訪問看護ステーションでは算定する「訪問看護基本療養費」に違いがありますので見ていきましょう。
一般の訪問看護
(訪問看護基本療養費Ⅰ) |
精神科訪問看護
(精神科訪問看護基本療養費Ⅰ) |
|
看護師等(週3日目まで) | 5,550円 | 30分未満:4,250円
30分以上:5,550円 |
---|---|---|
看護師等(週4日目以降) | 6,550円 | 30分未満:5,100円
30分以上:6,550円 |
准看護師(週3日目まで) | 5,050円 | 30分未満:3,870円
30分以上:5,050円 |
准看護師(週4日目以降) | 6,050円 | 30分未満:4,720円
30分以上:6,050円 |
一般の訪問看護の基本療養費は、時間の区分がなく1回の訪問について設定されていますが、精神科訪問看護の基本療養費は、30分未満の場合と30分以上で違う金額が設定されています。
複数名精神科訪問看護加算と複数名訪問看護加算の違い
一般の訪問看護
(複数名訪問看護加算) |
精神科訪問看護
(複数名精神科訪問看護加算) |
|
(イ)看護師等※1 | 4,500円 | 1日1回:4,500円
1日2回:9,000円 1日3回以上:14,500円 |
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(ロ)准看護師※2 | 3,000円 | 1日1回:3,800円
1日2回:7,600円 1日3回以上:12,400円 |
(ハ)看護補助等※3 | 3,000円 | 3,000円 |
(ニ)看護補助等※4 | 1日1回:3,000円
1日2回:6,000円 1日3回以上:10,000円 |
該当項目なし |
※1 同行者は、一般の訪問看護の場合、保健師、助産師、看護師です。算定日数の上限は週1回まで。精神科訪問看護の場合は、保健師、看護師、作業療法士。週ごとの算定日数上限はありません。
※2 同行者は、一般の訪問看護の場合も精神科訪問看護の場合も准看護師。算定日数上限があり、週1日までとなります。精神科訪問看護の場合は、週ごとの算定日数上限はありません。
※3 同行者は、一般の訪問看護の場合は看護補助者で、算定日数上限は週3日までとなります。精神科訪問看護の場合は、同行者は看護補助者に加え、精神保健福祉士が含まれます。算定日数上限は週1回までとなります。
※4 算定日数上限はありません。
指示書に複数名訪問の必要性記載が必要
通常の複数名訪問看護加算の場合には複数名訪問の対象者の条件が明確に定められていますが、複数名精神科訪問看護加算の場合には医師の精神科訪問看護指示書の「留意事項および指示事項」に「複数名訪問の必要性」とその理由の記載があれば算定が可能となります。
理由は「スタッフの安全確保のため」と記載されていることが多いとのことです。精神科における複数名訪問看護についてはスタッフの安全を守るため、柔軟に対応でき、加算を算定することができるようになっています。
算定日数の制限がない区分が多い
通常の複数名訪問看護加算の場合には、週1日もしくは週3回までと算定日数制限がついていることが多い一方で、複数名精神科訪問看護の場合には、(ハ)の同行以外には算定日数上限がありません。頻回に対応ができるような制度となっています。
(参考:在宅医療その2|厚生労働省)
精神科に特化した訪問看護ステーションを開業・運営するメリットとデメリット
ここまでは一般の訪問看護ステーションとの違いについてご説明しましたが、精神科訪問看護に特化することで、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?それぞれについて詳しく説明していきます。
精神科に特化した訪問看護ステーションを開業・運営するメリット
1.利用期間が長期になる利用者が多い
一般の訪問看護ステーションの場合、高齢で介護や看護を必要とする方や、高齢化により慢性疾患を併発している状態で看護を必要とする方などが多く、数か月〜1年ほどの利用期間となってしまうことが多いようです。一方で精神科疾患の場合、発症年齢によって様々な年齢層の方が利用しています。また、精神科に係る利用者は在宅療養において長期的に自立支援を行うケースが多いため、利用期間が長期に渡るケースが多いようです。
利用期間が長期に渡る利用者を確保できることは、売上の安定化に繋るため、精神科に特化するメリットになっています。
2.精神科対応の訪問看護が不足している地域が多く、ニーズがある
精神科訪問看護のニーズが年々増加しており事業所数も増加傾向にあります。一方で2021年度の実態調査では、精神科訪問看護基本療養費を算定している事業所数は4915ヶ所であり、これは訪問看護基本療養費を算定している一般の事業所数の9192ヶ所と比べると、約半分であることがわかります。
そのため、事業所が不足している地域が多く、利用者獲得がしやすいという点でメリットがあるでしょう。
3.事業所の強みがわかりやすく地域に覚えてもらいやすい
訪問看護ステーション名に「精神科」とつくことで、利用者のご家族や精神科のクリニック・病院、保健師やケースワーカーから「精神科に対応している訪問看護ステーション」と認識してもらいやすいこともメリットの一つと言えます。実際に精神科訪問看護が必要な患者さんがいた際に、「あの訪問看護ステーションに聞いてみようかな」と思い出して紹介の連絡をする機会にもつながるでしょう。
地域の医療・福祉関係者から事業所を認知してもらうことは、訪問看護ステーション経営において非常に大切なポイントになります。
4.看護師の疾病知識・看護技術の専門性を高めやすい
一般の訪問看護ステーションの場合、脳血管疾患・心疾患・呼吸器疾患・整形外科疾患・内分泌疾患など、身体のあらゆる部位における疾患の知識を習得しケアが実践できるように対応をする必要があります。
採用している看護師のこれまでの業務経験は人それぞれ異なるので、心疾患の看護経験はあるものの脳血管疾患がない場合など、それぞれの経験分野を勉強会や日々の学習で互いにフォローしながらスキルアップを図る必要があります。もし在籍するどの看護師も経験していない領域の疾患について研修を行う場合には、準備に苦労するケースが多いようです。
一方で精神科に特化した訪問看護ステーションの場合、すべての看護師が精神科領域に関する経験があるため、領域に特化した学習や看護技術のスキルアップのための環境を整えやすいというメリットがあります。
精神科に特化した訪問看護ステーションを開業・運営するデメリット
1.利用者の疾患領域が限定的なので利用者獲得が難しい可能性がある
地域の人口や都市部・郊外などの特性、そして住民構成の変動によっては、精神科訪問看護の需要が変動する可能性があります。一般の訪問看護ステーションの場合であれば一部疾患領域の利用者に変動があっても、さほど経営に影響はありませんが、精神科特化の場合には経営に直結する影響になりかねません。
また、近隣の医療機関の閉鎖による影響を受ける可能性もあります。
精神科訪問看護の指示書は精神科を標榜とする医療機関の精神科医のみが作成可能です。
訪問看護ステーションを開設した後に、近隣の精神科クリニックや精神科をもつ病院が精神科診療を中止したり、医療機関の転院や閉鎖をする可能性もゼロではありません。
対応疾患に特化するということは、地域や医療機関等の外部環境の影響を受けやすいということがリスクになることも考慮しなければなりません。
2.精神科の経験がある看護師の採用が難しい
看護師の採用市場は、病院やクリニックなど全体をみても需要が大きく上回り、人手不足な状態が続いています。
精神科訪問看護を実施する看護師は精神科の経験あるいは精神疾患に係る研修の経験が必須となることから、その条件に合う人材を探すことは非常に大変です。
精神科特化の訪問看護を開業する場合に気を付けるべきポイント
1.地域のニーズと競合の有無を確認しましょう!
精神科訪問看護ステーションの開業をする場合、近隣に精神科に対応した入院病床をもつ医療機関や、日常的な通院診療に対応している精神科のクリニックがあるかどうか等、周辺の医療提供状況を調べて開業地域の選定をしましょう。
また、開業候補の地域にすでに精神科に特化した訪問看護ステーションが存在するのかどうかについても確認をしましょう。競合となるような事業所が近隣に存在する場合、安定した利用者数を維持できない可能性があります。開業候補地の調査は十分に行いましょう。
2.看護師・保健師・作業療法士等を採用できるか確認しましょう!
精神科経験をもつ医療従事者の方を採用できる方法を模索しましょう。
まずはハローワークで訪問看護ステーションの求人情報や応募者の状況を聞いてみましょう。直近の応募数や応募推移を参考に、採用人数を確保できるかどうか判断します。
情報収集の結果、ハローワーク経由で採用者を確保するのが難しい場合には、様々な求人媒体や人材紹介サービスなどを利用し、予定よりも採用コストがかかってしまうこともあります。
医療職の経験がある方は人脈を活用して精神科経験のある医療従事者を紹介してもらうことも策の一つとなるでしょう。
精神科訪問看護に限った話ではありませんが、人は人を見て職場を決めることが大いにあります。これまでの知人や友人、看護師に関係する方をたどって転職先を探している方がいないかどうか探してみましょう。
精神科訪問看護ステーションを開業してどのような看護を提供したいのか、地域にどのように貢献したいのかといった思いを伝え、共感してくれる方をぜひ見つけてください。
3.地域の医療機関との関係性構築
安定的な利用者を維持するには、精神科の在宅療養支援を必要とする患者さんを医療機関や地域から紹介してもらう関係性を構築することが重要です。近隣の精神科対応の病院や、精神科のクリニックには開業時に挨拶に行き、精神科訪問看護ステーションを開設した経緯や、夜間対応の有無を含めた看護体制の説明を行い、良い関係性の構築に努めましょう。
まとめ
精神科訪問看護ステーション経営は儲かるのかどうかについて、需要や開業した場合のメリット、デメリットを踏まえて解説しました。経営が儲かるか儲からないかは、ステーション経営状態や地域の特性により左右されます。
また、精神科に特化することで利用者獲得や事業所の特色をわかりやすく伝えられるなどのメリットがありますが、看護師の確保や利用者を限定することによるデメリットもあります
この記事でお伝えした内容が精神科に軸を据えて訪問看護ステーションを経営したい、開業したいとお考えの方にとって少しでも参考になれば幸いです。
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