精神科訪問看護スタッフのメンタルヘルスへの取り組み方~スタッフが辞めない組織作りの事例~
公開日: 更新日:
株式会社There is 代表取締役 訪問看護ステーション「らしさ」所長 山下隆之
看護師・精神科認定看護師資格を取得。株式会社There isを設立後、精神科特化の訪問看護ステーションらしさを開設。著書に『精神科仕事術この科で働くことを決めた人がやったほうがいいこと、やらないほうがいいこと』がある。
目次
はじめに
精神科訪問看護では、その症状や特性から利用者さんから暴力を受けやすい状況があります。また利用者さんの不安や葛藤などが看護師自身の心の器に流し込まれ、同じような感情が沸き起こることで、自身のメンタルの危機に直面することもあります。そのような中で精神科訪問看護に携わり、働き続けることは簡単なことではありません。
ここでは、事業所の規模に関係なく、組織としてスタッフのメンタルヘルスにどう取り組むといいのかを私が実践してきて学んだことを中心にお伝えし、今後の事業所運営やスタッフのメンタルヘルスへの取り組みに少しでもお役に立てれば幸いです。
安心して働ける環境をつくる経営者・管理者のマインドと行動
スタッフのメンタルヘルスは、その場にいることの安全感や安心感が大きく関与していると思いますが、安全感や安心感に最も影響するのは経営者・管理者のマインドと行動だと私は考えています。そこでスタッフのメンタルヘルスを維持するために必要な管理者のマインドと行動についてお伝えしたいと思います。
冷静な態度:感情的にならない。常に冷静で穏やかな態度を維持する。
丁寧な言葉遣い:仕事中に出会うすべての人に「です・ます」を語尾につける。
基本の挨拶:出勤時は「おはようございます」、退勤時は「おつかれさまです」と相手の顔を見て挨拶をする。
整理整頓:自身の机の上に物をおかない。引き出しの中を整理整頓する。
約束を守る:時間や約束を守る。
迅速な対応:迅速で適切なレスポンスをする
ポジティブ:肯定的・積極的・前向き・楽観的な言葉を使い、ネガティブな言葉は使わない。例えば「すいません」ではなく「ありがとう」、「疲れた」ではなく「頑張った」という言葉を使う。これをポジティブ管理といいますが、ポジティブ管理は、続けることで困難を成長の機会と捉え、自己肯定感を高める原動力になります。
ビジョンの共有:経営者・管理者として事業所をどうしていきたいかを明確にしてスタッフに伝える。
任せる姿勢:スタッフに看護を任せる。
開設当初はスタッフが5人前後のため、経営者・管理者が役割モデルになり、なかなかスタッフに看護を任せられないことが多いように思います。一方で、スタッフの相談に親身に乗り、メンタルのサポートをしているところが多いと思います。小規模の事業所ではそれでいいと私は思いますが、ただその環境では管理者がスタッフの課題解決をしてしまい、スタッフにとって成長しにくい環境になってしまいます。さらにその状況が5年、10年と続くと管理者もスタッフも疲弊して、スタッフの退職によって人員不足で事業所自体が存続の危機に陥ることもあります。
そうならないためには、管理者はできるだけ看護をスタッフに任せ、見守るマインドが必要だと思います。スタッフは自身で看護のあり方に悩み、失敗をしながら学びを深め、成長していくのです。管理者はスタッフに任せ、見守り成長する機会を与えることが本当の役割です。実はそれができるかどうかが、組織が成長していけるかどうかのターニングポイントだと私は考えています。その先で、スタッフは自身のメンタルヘルスの管理もできてくると思います。
経営者・管理者がスタッフのメンタルケアのために取り組むべきこと
採用面接時に求職者に覚悟があるかを伝える
私は、採用面接時の最後に「精神科訪問看護は過酷な仕事です。利用者さんとの対話を通して、自身のあり方そのものに悩むこともあれば、利用者さんからの言葉で心を傷つけられ疲弊してしまうこともあります。それでもこの仕事を続ける覚悟はありますか」などと聞くようにしています。
それは、これまで入職してこられても、短期間で退職されてしまうケースが往々にあったからです。精神科訪問看護は、利用者さんとの関係性の中で存在するので、一度入職したら、自組織でキャリアを積み、働き続けられるような組織作りが必要だと考えています。そのスタートとして、覚悟を持って働く意識づけができるような面接ができるとよいと思います。
事例として、実際に入職してこられた新人さんが、入職3か月目に利用者さんから暴言を受けたことがありました。すぐにフォロー面接をして「怖かったです」と号泣されましたが、数日後に「入職時に言われたことはこういうことですよね。でもこれからもここで働き続けたいのでよろしくお願いします」と前向きな言葉を言ってもらえました。この時、面接時に「覚悟はありますか」と聞いてよかったと思いました。
スタッフの1日の訪問時間と回数の上限を決めておく
精神科訪問看護は、利用者さんの不安や葛藤などが看護師自身の心の器に流れ込み、同じような感情が沸き起こることで、自身のメンタルの危機に直面することもあります。そのため当事業所では、1日の訪問時間と回数の上限を「45分×6件」=270分と決めています。訪問時間の上限を決めてスタッフに伝えておくことは、日々のスタッフの心理的負担を減らすことになると思います。
訪問看護以外の業務効率を考える
業務としては訪問看護以外に、看護記録や報告書の作成、関係機関との連携など多岐にわたり、タスク管理が求められます。訪問にできるだけ集中できるように、記録や報告書の作成などはAIを使って効率化を図ったり、事務員を雇用し業務を分担したりして、看護師の訪問看護以外の業務を減らすことも、スタッフのメンタルヘルスに役立つと思います。
「仕事ルール」を活用したメンタルケア
当事業所には、「仕事ルール」というものがあります。
「仕事ルール」とは、管理者がスタッフにやってほしいことを行動レベルで記載したもので、100項目近くあり、スタッフ全員に周知しています。内容は、社会人として必要な言葉遣いや挨拶の仕方から、職業人としての仕事への姿勢や精神科看護師としてキャリアを積むための課題などです。
実は前述の管理者のマインドと行動の7項目目までは、「仕事ルール」の中に組み込まれていました。毎月面接をして、「仕事ルール」の項目を実行できたかどうかを確認して、できないところをどのように実現していくかを自身で考えてもらうようにしています。
冷静な態度:感情的にならない。常に冷静で穏やかな態度を維持する。
丁寧な言葉遣い:仕事中に出会うすべての人に「です・ます」を語尾につける。
基本の挨拶:出勤時は「おはようございます」、退勤時は「おつかれさまです」と相手の顔を見て挨拶をする。
整理整頓:自身の机の上に物をおかない。引き出しの中を整理整頓する。
約束を守る:時間や約束を守る。
迅速な対応:迅速で適切なレスポンスをする
ポジティブ:肯定的・積極的・前向き・楽観的な言葉を使い、ネガティブな言葉は使わない。
「仕事ルール」は、スタッフ全員がそのルールを守ろうとすることで所属意識が高まり、スタッフ間の連帯感が育まれます。また自身の成長を実感し、会社に貢献することでやりがいを持って働くシステムになっています。組織が同じ方向を向いて、それぞれが役割責任を果たすことに専念できる環境が、実は最もポジティブなメンタルヘルス対策になっていると私は考えています。
「仕事ルール」の中の直接的なメンタルヘルスに関連する項目
メンタルヘルスに関連する直接的な項目としては、「自身のメンタルの危機や利用者さんに対する恐怖感など出現すれば、躊躇せずに直属上司に相談する」という項目があります。
スタッフの中には何でも自分で解決しようとして、他者に相談することが苦手な方もいます。相談できることは他者に頼る能力で、それは、高めることができます。
自分で解決しようとすることは大切ですが、メンタルの危機に陥る前に、他者に相談できるとよいと思います。管理者は、スタッフが相談しやすい態度を維持できるようなマインドと行動をしていくことが大切です。
組織全体で利用者からの暴力を防ぐ仕組みづくり
精神科訪問看護では、その症状や特性から利用者さんから暴力を受けやすい状況があり、暴力を受けることでメンタルの危機に陥ることがあります。そのことを前提に組織で利用者さんからの暴力対策を考えるとよいと思います。具体的には、以下のようなことです
暴力とは何かをスタッフ間で共有する
暴力には、殴るなどの行動による暴力、「それでも看護師か」などの言葉の暴力、セクシャルな発言や行為による暴力の3種類があります。まずはスタッフが暴力とは何かを知り、暴力を受けていることを自覚できるようにしておくことが必要です。
暴力は予防できるという信念を持つ
利用者さんが暴力に発展しないためには、言葉遣いに気をつけ、落ち着いた態度を維持し信頼関係が大きく影響することを知ることが大事です。訪問時は、出口に近い方に座り、手と足が届かない距離を取りましょう。
利用者さんから行動による暴力を受けそうな時は、「逃げる」
暴力を受けてしまうと利用者さんは加害者になりますが同時に被害者にもなります。利用者さんの怒りや興奮から暴力を受けそうな時は、「逃げる」ことが大切です。逃げれば、利用者さんは暴力を振るうことはできないし、暴力を受けることもありません。暴力対策として「逃げること」は、最も大切で必要なケアです。
言葉の暴力を受けた時、利用者さんだからといって我慢しない
精神科訪問看護は利用者さんとの関係性を築いていくことがケアそのものになります。利用者さんから言葉の暴力を受けた時、利用者さんだからといって我慢することはしなくてよいです。その時は、毅然とした態度で、「そういう言い方はやめてください。その言葉に私は傷つきました」などと利用者さんに自身の感情を伝える勇気を持つことも大切です。利用者さんに伝えることは、利用者さんが自身の言動を振り返る機会になり、それはケアそのものです。
感情不安定な利用者による暴言への対応原則
利用者さんからの暴力を防ぐ仕組みをつくっていたとしても、こういった利用者さんの言動に看護師は疲弊して仕事ができなくなってしまうことがあります。
こうした場合には、以下のようなことを実践するとよいでしょう。
訪問看護師を固定にしないで数人で回し負担を減らす。
主治医から複数名訪問の指示をもらい、2人体制で訪問に行く。
スタッフ間で対応方法を決め、意思統一をする。
定期的にスタッフ間で情報共有し、場合によってはスタッフそれぞれが、感情を吐露しあえる機会を作る。
まとめ
スタッフのメンタルヘルスへの取り組みについて、経営者(管理者)に必要なマインドや行動、当事業所の取り組み、組織における利用者さんからの暴力対策、業務の効率化の必要性などについてお伝えしました。
ここで述べたことが、今後の事業所運営やスタッフのメンタルヘルスへの取り組みに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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