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精神科訪問看護の利用目的と目指すべき目標とは?

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精神科訪問看護の利用目的と目指すべき目標とは?
株式会社There is 代表取締役 訪問看護ステーション「らしさ」所長 山下隆之

株式会社There is 代表取締役 訪問看護ステーション「らしさ」所長 山下隆之

看護師・精神科認定看護師資格を取得。株式会社There isを設立後、精神科特化の訪問看護ステーションらしさを開設。著書に『精神科仕事術この科で働くことを決めた人がやったほうがいいこと、やらないほうがいいこと』がある。

目次

この記事では、精神科訪問看護に携わる看護師の皆さんに向けて、精神科訪問看護の利用目的、必要とされる理由、厚生労働省が示す精神科訪問看護の役割に関する情報をもとに精神科訪問看護を提供する目的について述べています。最後に、精神科訪問看護における利用者とのかかわり方と看護目標の設定について、3つの事例から紹介します。

精神科訪問看護の利用目的と必要とされる理由

精神科訪問看護において、支援の目標は利用者が「リカバリー」することです。リカバリーとは、障害があっても、地域で自分らしい満足した人生を送ることを意味します。

しかし、精神障害を持っている人は、症状に左右されるだけではなく、精神障害に対して根強い偏見が残っている社会の中で、リカバリーしていくことは容易ではありません。

そこで、利用者はリカバリーしていくための社会資源の一つとして、精神科訪問看護を利用します。精神科訪問看護は、精神科の知識や技術を持ち、利用者の生きづらさを認め、共に悩み、考え、利用者が社会に一歩踏み出す勇気を持てるように支援します。そんな精神科訪問看護は、利用者がリカバリーしていくために必要な存在だと私は考えています。

厚生労働省が示す「精神科訪問看護を提供する目的」とは?

2017年(平成29年)2月、厚生労働省が出した報告書「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」で、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことが、新たな理念として示されました。

「地域包括ケアシステム」とは、精神障害者も地域の一員として安心して自分らしい暮らしができるよう、生活圏域でさまざまな相談窓口、医療、住まい、障害福祉・介護、社会参加など保健・医療・福祉が包括的に確保されるようにデザインされたものです。この中で精神科訪問看護は、医療サービスの一つとして位置づけられています。

ここでは、「地域包括ケアシステム」を推進する中で、厚生労働省が示した精神科訪問看護の役割を踏まえ、精神科訪問看護を提供する目的について3点述べたいと思います。

利用者がリカバリーの段階を踏んでいけるように支援すること

精神科訪問看護は、利用者との信頼関係の構築を前提に、利用者が気づき、準備し、新たな一歩を踏み出す勇気が持てるように、長期的な視点で支援をします。これは精神科看護師として知識、技術、経験を活かしたスペシャリストとしての支援です。

精神症状の急性増悪時や緊急時のニーズに対応すること

注意深い観察で利用者の変化を察知し、精神症状の急性増悪のアセスメントや身体的な異常の早期発見ができる能力が求められます。

特に緊急時のニーズは厚生労働省から出された報告書でも求められており、今後は、24時間対応体制の整備と充実が求められると考えられます。届出をされている事業所は、24時間対応体制の現実的なあり方を再考し、利用者へのインフォームドコンセント(説明と同意)が必要で大切でしょう。

入院医療機関や障害福祉サービスと連携して利用者の生活を支えること

精神症状の急性増悪時などは、主治医と連携して薬物調整や入院の可否の判断、入院が必要と判断した場合は入院先との連携が求められます。

入院時は、「精神科訪問看護サマリー」の送付や退院時のカンファレンスなどに積極的に参加をするとよいでしょう。病院から信頼を得られ、その後の連携がスムーズになるからです。要介護状態になった時などは、利用者へ障害福祉サービスの情報提供や介護保険事業所との連携ができるとよいと思います。

最後に、円滑なステーション運営を考える際は、「地域包括ケアシステム」とは何かを知り、精神科訪問看護がどのように役割貢献していけるかを考え、実践していくとよいと思います。それがひいては、精神科訪問看護の社会的なニーズや認知度を高めることにつながります。

精神科訪問看護における利用者とのかかわり方、看護目標の設定はどのように行う?

利用者のかかわりで大切なことは人権と自己決定の尊重です。その第一歩は、利用者のいかなる思いや価値をも認め、信頼関係を構築していくことです。それから、利用者の希望や利用者にとって価値あることの実現に向けて、今の困りごとを聞き、辛い感情に寄り添い、どのようにすればよいかを一緒に悩み、考えていくことです。

すぐには今の状況や課題を解決できなくても、一緒に悩む姿勢も支援そのものです。そのプロセスでの看護目標は、利用者自身がリカバリーしていくための目標であり、将来の夢や希望を長期目標とし、長期目標達成のために現状の課題を解決していくことを短期目標にするとよいと思います。

強迫性障害の事例①

Aさん。女性。20代前半。診断:強迫性障害

家族状況

両親、弟との4人家族。父親はしつけに厳しく、自分に気に入らないことがあると感情的になって怒り出す。母親は専業主婦で、引きこもっているAさんに対し、成績優秀な高校生の弟と比べるような発言をしたり、生活上の問題について繰り返し小言を言ったりしていた。

利用開始時の状況

大学1年の時に体に便がついているという強迫観念が強くなり、大学を中退後は自宅で引きこもった生活をしていました。1日の起きている間のほとんどの時間、シャワーを浴びており、お風呂は一度入浴場に入るとシャワーを5時間以上浴びていることも少なくありませんでした。

利用者とのかかわり方

生活上の困りごとについて聞くと「特にないです」と、困りごとに関する話題を避けるため、自尊心を傷つけないことを優先に、Aさんから困りごとについて話をした時以外は聞かないようにしました。その代わり、Aさんの趣味ややりたいことなどについて対話するようにしました。Aさんから、高校生の時は牛や馬のお世話をする授業があり、将来は動物のお世話をするような仕事がしたいと教えてもらえました。

強迫症状については、今はAさんにとっては必要な反応で、Aさんのストレス対処としてある反応だと考えていることを伝えました。シャワーを独占して家族に迷惑をかけていることで自責の念が強いAさんに対して、「シャワーを独占している状況は、症状によって引き起こされた結果ですけど、家族に迷惑をかけていることは悔しいし申し訳ないと思ってしまいますよね」などとAさんの辛い感情に寄り添った言葉をかけるようにしました。

一方で家族援助を展開しました。Aさんに了解を取り、訪問看護の時間の中で母親の思いを聞く時間を設けました。母親は、Aさんが1日中シャワーを浴びていることで家族がシャワーを浴びられなくて困っていること、せめて外出ができるようになってほしいと思っていることなどを話し、看護師はその思いを受けとめました。

看護目標

目標 内容
長期目標 動物のお世話をする仕事に就く。
短期目標 ・生活上困っていることを看護師に言葉で伝えることができる。

・シャワーを浴びる1回の時間が5時間以内になる。

その後の経過

Aさんと母親と看護師で一緒に対話をする時間を作り、お互いの思いを語り合える機会を作りました。そのプロセスで、Aさんは、弟と比較して小言を言ってくる母親の言動に対する不満を初めて口にして、これまで我慢していた怒りを表出させることがありました。

それから間もなく、母親から「私は娘に対して、どのように接していったらいいのでしょうか」と看護師に助けを求めてきました。看護師は母親の対応でAさんは変われると感じており、そのタイミングを逃さず、「Aさんに対して一言、“頑張っているね”と労いの言葉を時々かけてあげてもらえませんか」とお願いをすると、母親は「わかりました。そうしてみます」と答えました。

それから半年後、Aさんと母親の関係が変わり、Aさんはシャワーを1時間以内で終えられるようになり、B型作業所に通所する準備を進めています。

統合失調症の事例②

Bさん。男性。三十代後半。診断:統合失調症 軽度発達遅滞

利用開始時の状況

日常生活は自立しており、日中はB型作業所に通所していました。「屋根裏に自分に嫌がらせをしてくる住人がいて困っている」と妄想体験を話され、妄想で不安が高まると作業所を休んだり、不眠になったり生活に支障をきたすことがありました。妄想体験について家族や周りの支援者に話をしても信用してくれなくて悔しいと訴えられました。

衝動をコントロールする力が弱く、自分の気に入らないことがあると感情的になり、家族とは疎遠で単身生活をされ、社会的に孤立している状態でした。

利用者とのかかわり方

妄想体験の訴えには「Bさんがそう思っていることは信じます。その中で作業所に通って頑張っているのはすごいと思います」などとBさんに妄想体験があることを認め、その中で頑張っていることを支持しました。嫌がらせをしてくることについては一緒に具体的な対応策を練っていきました。将来の目標やしたいことがあるか聞くと「彼女がほしい。いつかは結婚したい」と話されました。

看護目標

目標 内容
長期目標 彼女を作って結婚をする。
短期目標 ・生活に支障がない程度に妄想を抑えることができる。

・彼女を作るために、今、どのような生活を送るといいのかを看護師に言葉で伝えることができる。

双極性障害の事例③

Cさん。女性。30代前半。診断:双極性障害

家族状況

夫と小学生の2人の息子との4人家族。Cさんは専業主婦。うつ状態で家事ができなくなり、障害福祉サービスの居宅介護を利用している。

利用開始時の状況

軽いうつ状態が続いており、日中は買い物に行く以外はほとんど自宅で横になっていました。家事ができないことや障害福祉サービスまで利用していることへの自責感が強く、家族への申し訳なさを感じていました。

利用者とのかかわり方

訪問時のCさんの表情や服装、雰囲気で気分の落ち込みの程度をアセスメントして、落ち込みが少ないと判断した時は、看護師から声をかけ、日常生活で起こったことや感じたことを聞きました。沈み込み、落ち込みが強いと判断した時は、話し出すまで待つようにしました。

特に自責感が強い時は、その気持ちを受けとめた上で、「気分が上がったり下がったりするCさんがいるけれど、どれもCさんで、今のままのCさんでいいと思います」などと伝えるようにしました。その言葉にCさんは涙を浮かべることがあり、その時はお互いの気持ちが通じ合っているのを感じました。この先が絶望感でいっぱいにならないように「気分は誰にでも波があり、いつかは上がるので、時間を薬に、待つことも大切だと思います」などと言葉をかけました。

障害福祉サービスを利用していることについては、社会資源を活用して頼ることも能力であることを伝え、訪問看護を利用してもらっていることに感謝を伝えました。

看護目標

目標 内容
長期目標 家事をできるようにする。
短期目標 自分の思いや考えを看護師に言葉で伝えることができる。

まとめ

精神科訪問看護の運営は、利潤追求を優先するのではなく、顧客ファーストで利用者を1人の人として尊重するという倫理実践にそったサービスを提供していれば、十二分に生き残っていけると思います。

精神科訪問看護は社会の中で、まだまだ認知度も社会的評価も低いですが、潜在的ニーズは高く、不安定な社会になればなるほど社会的ニーズは高まります。年々、精神科訪問看護をやり出す事業所は増加していますが大丈夫です。政策に則った精神科訪問看護を提供し、目指すべき目標を知り、利用者のニーズを捉えた支援ができる力をつけた事業所が、最後は成功への扉を開けることができます。私はそう信じています。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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