精神科訪問看護とは?支援内容や看護師の役割、現場の声を紹介
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この記事は2024年11月時点の情報をもとに執筆しています
株式会社There is 代表取締役 訪問看護ステーション「らしさ」所長 山下隆之
看護師・精神科認定看護師資格を取得。株式会社There isを設立後、精神科特化の訪問看護ステーションらしさを開設。著書に『精神科仕事術この科で働くことを決めた人がやったほうがいいこと、やらないほうがいいこと』がある。
目次
この記事では、精神科訪問看護とは何か、精神科訪問看護の対象となる疾患とその病態や基本症状、看護師の役割と支援内容、1日の一般的な業務の流れ、精神科訪問看護のやりがい・大変なことについて解説します。
さらに、精神科に特化した訪問看護ステーションの管理者が、看護職員を守るためにどのようなマネジメントすべきかを5つのポイントにまとめて詳しく説明していきます。
精神科訪問看護とは?
精神科訪問看護とは、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、生活の主体である精神障害を持つその人と共に考え、その人が自ら悩み、考え、行動しながら自分らしい満足した生活を送ることができるように、長期的視点を持って支援していく営みです。
利用者の自宅に訪問し、対話を通して日常生活の支援を行います。支援とは、助けてくれる人がいなくなっても、その人が自身のよりよい生き方を見出していくことができるように長期的視点を持ってサポートしていくことです。
精神科訪問看護における看護師の役割と支援内容とは?
ここからは、精神科訪問看護の対象になる疾患の例と、精神科訪問看護における看護師の役割と支援内容について紹介します。
精神科訪問看護の対象になる疾患とは?
精神科訪問看護の対象になる精神疾患は、ICD(世界保健機関)が提唱する精神および行動の障害の分類(F00~F99)のすべてになります。その中でよく対応する精神疾患を便宜的に外因性疾患、心因性疾患、内因性疾患、神経発達関連の疾患、その他の疾患の5つに分け、疾患の病態や基本症状について簡単に説明します。
①外因性疾患
外因性疾患とは、身体状態が原因で起こる精神疾患のことを指します。
高次脳機能障害
脳の損傷によって起こる記憶障害や遂行機能障害、社会的行動障害が症状として現れます。
遂行機能障害:計画を立てることや、計画に沿って進めることができなくなる
社会的行動障害:自身の行動や言動を、状況に合わせて制御できなくなる
②心因性疾患
心因性疾患とは、心理・社会的要因によって起こる疾患を指します。
全般性不安障害
日常の出来事や問題に遭遇した際に恐怖感や不安が制御できず、自律神経失調症のような息苦しさやめまいといった症状が現れます。
パニック障害
動悸や呼吸困難等の自律神経失調症の症状が予期せずに現れる「パニック発作」や、その症状に対する恐怖を感じること、発作がいつ起こるかわからない「予期不安」等の症状があります。
強迫性障害
不安が消えない強迫観念や、不条理とわかっていても止められない強迫行動といった症状が現れます。
解離性障害
強いストレスから逃れるために起こる意識や記憶の喪失が代表的な症状の一つで、自分が誰なのかが分からない、複数の自己を持つといった症状が起きる「自己同一性障害」も解離性障害に含まれます。
身体症状症(身体表現性障害)
身体的問題や検査結果上の異常はない状態であるものの、体に痛みを感じたり、吐き気やしびれが続いたりする症状が現れます。
③内因性疾患
内因性疾患とは、はっきりとした原因がわかっていない疾患群のことを指します。内因性疾患の統合失調症、うつ病、双極性障害は、薬物療法が期待できます。
統合失調症
考え方や見たり聞いたりしたものの理解の仕方がうまくできない状態。基本症状は妄想や幻聴などの陽性症状、陰性症状、認知障害。
うつ病
自ら作ったルールや行動に囚われ、その水準を維持しようとするができなくなって悪循環に陥っている状態。基本症状は空虚感や興味や喜びの喪失。
双極性障害
対人関係を傷つけ、職場や学校で問題になったり、自殺につながったりする。制御がきかず、その激しい感情と行動に支配されていると感じる状態。
④神経発達症(神経発達関連の疾患)
精神発達遅滞や自閉スペクトラム症などの神経発達症は発症者間で程度の差があり、持って生まれた特性として症状が現れます。
精神発達遅滞
知能指数(IQ)が69以下の場合を「精神発達遅滞」と定義されています。精神の発達が十分に進まず、認知、言語、運動、社会的な能力に障害がある状態を指します。
この精神発達遅滞は「軽度、中等度、重度、最重度」の4つの段階に分かれており、知能指数(IQ)が50~69の場合は軽度精神発達遅滞と分類されます。
自閉スペクトラム症(ASD)
特性としてコミュニケーションに課題があり、臨機応変な対人関係が苦手という特徴があります。自身が関心をもつことや物事の進め方、ペースへのこだわりが強いとされ、聴覚、味覚などの感覚異常がみられることがあります。
⑤その他の疾患
依存症
薬物やギャンブルなど特定の物質や過程・行為などにより、身体的・精神的・社会的に自身の不利益になっていても反復し続け、やめられないといった症状があります。
摂食障害
基本症状の「太る」という恐怖から、拒食や過食、自己誘発の嘔吐を繰り返します。
パーソナリティ症
社会とつながるために用いる機能の障害で、基本症状として感情の障害、衝動コントロールの障害、社会的人間関係構築の課題があります。
看護師の役割と支援内容
精神科訪問看護における看護師の役割は、利用者が家族や友人などと交流しながら、日々の暮らしの中で揺れ動きながらも、人の役に立ち、満足感のある希望に満ちた人生を送ることができるようにサポートしていくことです。
支援内容は病院と同様、主治医からの指示の下で行います。指示内容としては、生活リズムの確立、家事能力・社会技能などの獲得、家族も含めた対人関係の改善、社会資源活用の支援、薬物療法継続への援助、身体合併症の発症・悪化の防止などがあります。
精神科訪問看護の業務内容
精神科訪問看護の業務について、より詳しく説明していきましょう。精神科訪問看護ステーションに務める看護師の1日をご紹介します。
精神科訪問看護ステーションの看護師の1日(例)
時間 | 業務内容 |
9:00~9:30 | 1日のルート表(どの利用者宅に何時に行くか)の確認 訪問予定の利用者情報をカルテから収集 移動 |
9:30~10:15 | 訪問① バイタルサイン測定、対話を通した生活リズム獲得の支援 |
10:15~11:00 | 移動 空いた時間で訪問①の記録 |
11:00~11:45 | 訪問② バイタルサイン測定、副作用の観察、薬物療法継続支援 |
11:45~13:30 | 事業所に戻る 訪問②の記録、休憩・昼食 移動 |
13:30~14:15 | 利用者のケース検討会議 参加者(利用者、家族、障害者基幹相談支援員、 グループホーム管理者、訪問看護師) |
14:15~15:00 | 移動 |
15:00~15:45 | 訪問③ バイタルサイン測定、就労移行支援に関する情報提供 |
15:45~16:30 | 移動 空いた時間で訪問③の記録 |
16:30~17:15 | 訪問④ 対話を通した職場での対人関係の課題解決の支援 |
17:15~18:00 | 事業所に戻り訪問④の記録 退勤 |
精神科訪問看護ステーションの現場の声
精神科訪問看護に従事する看護師の立場から、精神科訪問看護のやりがいと、大変だと思うことについてご紹介します。
精神科訪問看護のやりがいとは?
精神科訪問看護は、看護師側の一方的な支援ではなく、利用者を一人の人として尊重し、人対人の関係性を育みながら行われます。そこでのやりがいを2点伝えたいと思います。
1点目は、障害を持っていても、今を必死に生き抜いている利用者の姿に尊敬の念を抱き、感動を覚え、自身の生き方を見直す契機となる機会を得られることです。看護師の前に1人の人として、そこに人が存在していることの尊さに気づけたり、当たり前の日常に感謝できたり、自身の人間的成長を感じることができることです。
2点目は、利用者自らが自分らしい生活を見出していくプロセスを通して、そこに関与していることに満足感を得られ、私という存在が他者に役立っていると感じられることです。
精神科訪問看護で大変だと思うことは?
最も大変なことは、自身の感情や精神の余裕を保ちながら精神科訪問看護の仕事をやり続けることだと思います。精神科訪問看護は、対話を通して利用者の不安や怒りなどの感情が自分の心の器に流し込まれ、同じような感情が沸き起こります。(これを「感情移入」と言います)。
自身の心の器が、利用者の感情でいっぱいになってしまうと心身に悪影響を及ぼし、精神科看護を続けていくことが難しくなることがあります。自身の心の余裕がなくなる前に人と話し、その状況と少し距離を取るなどして、自分なりの吐き出し方を身につけることが大切です。
次に時間管理です。訪問看護は分刻みの業務で、その看護師に権限と責任が委ねられます。出勤したら、1日の動きを想定し、見通しを立ててから仕事に臨めるとよいと思います。
精神科訪問看護の職員を守るために管理職が気を付けるべきこととは?
精神科訪問看護の現場では、職員がやりがいを感じる一方、身体的精神的負担が大きくなりやすい環境にあります。そこで、職員の心身の健康と安全を守りながら、質の高いケアを提供するために経営者や管理者が心がけるべきポイントを5つご紹介します。
①各利用者への担当看護師の割り振りを適切に行う
利用者の特性や相性を考慮して担当看護師を決めることは、利用者と職員双方にとって大切です。担当者には、利用者の情報収集や看護計画の作成、主治医への報告書作成などの責任を持たせることで、利用者の健康管理に役立つ報告が可能になります。報告書の内容は、利用者の状態を反映し、主治医が治療に役立てられるような質を保つことが信頼関係の構築に繋がります。
②チームでの訪問体制を整える
利用者との関係性を深める一方で、特定の看護師に依存しすぎないよう、複数の看護師で各利用者の対応ができる体制を整えることが必要です。
担当看護師が休む場合や異動する際も、他の看護師がスムーズに支援を継続できるようにすることで、利用者も適応しやすくなり、個々の職員への負担も軽減されます。
③職員全体で感情を表出する場を定期的に設ける
精神科訪問看護では、看護職員が利用者の不安や怒りと向き合うことが多く、精神的負担がかかります。
例えば週に一度、30分程度のミーティングで自由に感情を吐露し合える場を作るのはどうでしょうか。
各々が看護の悩みや辛い感情を吐露しあえることで、他の看護師も同じ感情を持っていることに安心でき、自分の辛い感情を皆に受けとめてもらえることで、1人1人が心理的安全性を持てるようになるでしょう。
お互いに悩みを共有し、他の看護師も同様の経験をしていると分かることで、安心して業務に取り組むことができます。
④個別面談で職員の声を傾聴する
定期的に職員一人ひとりと面談し、業務の目標管理だけでなく、職員の現在の思いや不安に耳を傾けることも重要です。この時間を通して職員が受け入れられていると感じられることで、安心して働ける環境が整い、やりがいや自己成長を感じる機会にもなります。
⑤看護師が仕事へのやりがいを持ち、成長できるような機会を与える
看護師一人ひとりが仕事にやりがいを持ち主体的に業務を進められるよう、日々の業務において権限を委譲することも大切です。例えば、訪問キャンセルがあった際に次の行動を自身で判断させるなど、看護師本人に考えてもらい、行動する機会を与えることで、責任感ややりがいを感じながら成長を促すことができるでしょう。
まとめ
精神科訪問看護は、簡単な仕事ではありません。精神科に関連した専門的知識と技術はもちろん必要ですが、それ以上に利用者を1人の人として尊重し、人対人としての関係性の中で共に悩み、考える姿勢が求められます。管理者は、精神科訪問看護とは何か、その支援内容や役割などを知り、スタッフが精神科訪問看護という仕事にやりがいを持ち、人として成長できる機会を与えることができるように職場環境を整えることが必要です。その先で、持続可能で成長し続ける精神科訪問看護ステーションを創ることができるのだと思います。
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