訪問看護の営業戦略・戦術とは?利用者を増やす体制構築に欠かせない6つの具体策
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合同会社Mind share 代表 前原 扶幸
大学卒業後、介護士としてキャリアをスタート。その後訪問看護や訪問マッサージの事業所で営業活動の経験を積み、2022年に合同会社Mind shareを設立。現在は訪問看護・訪問診療等の在宅分野の営業支援を中心に事業所の支援事業を行っている。また、30,000件の営業経験で培ったノウハウを反映した訪問領域の事業者向け営業管理ツール「つなぐけあ」の開発アドバイザーを担当。
目次
訪問看護ステーションを経営するうえで、質の高いサービスを提供することは最も重要なことですが、それだけでは利用者を増やし、経営を安定させることは難しい時代になっています。少子高齢化が進む中、訪問看護の需要は増加しているものの、競争も激化しており、他のステーションとの差別化や地域での認知度向上が経営の成否を左右します。
このような背景から、訪問看護ステーションの経営者の方は、訪問看護の営業戦略を考えるうえで一度は悩まれたことがあるのではないでしょうか?そこで今回は、以下について事例を踏まえながら解説します。
訪問看護の営業戦略とはマーケティング(顧客育成)であるという根本的な概念
なるべく費用をかけずにできる具体的な営業活動の手順や体制構築
他の検索して出てくる記事とは一味も二味も違った筋肉隆々な情報をお届けすることをお約束します。
訪問看護の営業戦略とは「マーケティング」である
訪問看護ステーションの営業戦略の目的は「利用者の獲得」になります。
訪問看護ステーションの稼働がなかなか上がらない
スタッフを増員したがなかなか新規のご利用者が増えない
このような悩みを抱える訪問看護ステーションは多いです。
利用者を獲得するための営業手法として、訪問看護ステーションの「空き情報」や「スタッフ紹介」のチラシを渡ししてステーションの特徴や強みを伝えるアプローチ方法があります。この手法は訪問看護ステーションで売上を上げるのに即効性がある営業活動ですが、より深く訪問看護ステーションの営業戦略とは何かを考え、私が行きついた結論は、「訪問看護ステーションの営業はマーケティングである」ということです。
訪問看護ステーションのマーケティングとは?
まず、一般的なマーケティングの定義について簡単に触れたいと思います。
マーケティングとは「企業・顧客・社会が共同で行う価値の創造による顧客や取引先との関係性を醸成し持続可能な社会を実現するための過程」とされています。
難しい表現ですが、これは取引先と共に価値を創造し続けることで双方の関係性を豊かなものにし、社会に貢献し続けることと言えるでしょう。
ここで、訪問看護のマーケティングに当てはめて考えていきたいと思います。訪問看護における顧客とは、訪問看護の利用者だけではなく、利用者の紹介依頼元である居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問診療、病院の地域連携室といった間接的な顧客も指します。訪問看護の営業戦略においては、このような紹介元の施設の担当者が重要な顧客と捉えます。
訪問看護のマーケティングとは、「自社の訪問看護ステーションの強みを活かし、直接的な顧客である利用者に対して、間接的な顧客である紹介元の施設と共に価値を提供し続けることで関係性構築を行っていくこと」と言えるでしょう。
顧客、地域の関係機関と共に価値を提供し続けることができなければ、本当の意味であなたのステーションが地域に根差し医療インフラとして存続できることは困難です。
※利用者向けの訪問看護マーケティングを検討中の方は、以下のようなプラットフォームで情報発信をすることもいいでしょう。
訪問診療・訪問看護の利用者向け情報発信なら「おうちde医療」
訪問看護マーケティングの真髄は営業先との「関係性構築」である
上記で訪問看護のマーケティングは「顧客育成」であるということをお伝えしました。
多くの訪問看護ステーションは対処療法的にダイレクトなアプローチをケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんに行います。
今まで私は30,000件以上の営業を経験してきましたが、正直、現在の首都圏や都市部の訪問看護市場は飽和状態と言えます。1日に3~4社の訪問看護ステーションが営業に来るようなエリアもあります。このような市場環境下で「空きがあります」、「スタッフを増員しました」、「今、訪問看護を考えている方はいませんか?」とアプローチしてもあまり効果はありません。
中長期的に見て、ケアマネジャーやソーシャルワーカーの方があなたのステーションに担当している利用者をお願いしたいと価値を感じなければ新規のご利用者紹介に繋がりません。単調なアプローチではなく相手が何の課題を抱えているのか、どのようなことで悩んでいるのかを引き出すことが重要です。
そのため、セールスをするというより相手が自分から抱えている課題や悩みをあなたに打ち明けるようなアプローチを投げかけましょう。
例えば
この地域で求められている訪問看護ステーション像は何でしょうか?
訪問看護ステーションが増えておりますが、まだ、痒い所に手が届かないことはありますでしょうか?
訪問看護ステーションにお願いして困ったことや失敗したことがありましたら教えてください。
この地域で私たちがお力添えできることはありますか?
あなたが担当されているご利用者で悩みを抱えていることはありますか?
上記のような質問を投げかけることで、相手からあなたに悩みを共有し、日頃抱えている悩みを打ち明けてくれるようになります。
そこから関係性を構築していき、あなたの訪問看護ステーションの価値を伝え、「あなたの訪問看護ステーションにお願いしたい」と自然と想起してもらうことが重要です。
このように、顧客の心の中で自社の印象や影響力が占める割合のことを「マインドシェア」と言います。
マインドシェアの獲得と維持
「訪問看護ステーションといえば〇〇」、と第一にあなたのステーションが想起されることが理想と言えます。
第二起想、第三起想となり占める割合が少なくなるほど新規顧客の獲得は遠ざかります。
訪問看護ステーションのマーケティングの真髄は「顧客育成」からなる「マインドシェア」の占有率向上が核となるのです。
あなたの訪問看護ステーションの近隣に何事業所ほど他社訪問看護ステーションはありますか?
競争が激しいエリアの場合はサテライト含めて数十~百数十事業所ほどあると思います。残酷な言い方になってしまいますが、あなたの訪問看護ステーションに依頼しなくても他に沢山あるということなのです。
近隣の訪問看護ステーションが営業活動を行っている中、あなたの訪問看護ステーションは営業活動をどのくらい行っていますか?もし積極的なマーケティングや営業活動が実践できていない場合、今、この瞬間に近隣の訪問看護ステーションにマインドシェアを奪われているかもしれません。
営業先との関係性を構築し、マインドシェアの獲得と維持し続けることが利用者獲得において重要です。そこで、これらを実現する最強の戦略を解説しましょう。
最強の戦略は月1~2回の定期訪問
マインドシェアの占有率を向上・維持するには、定期訪問をするということが大切です。競合他社が乱立する中で定期訪問こそが最強の戦略であると私は考えます。
なぜかと言うと、顔も見えない相手に人はお願い事をしないからです。訪問看護ステーションの集客においてホームページを見て、口コミを聞いて新規ご利用者の紹介が来るということは全体を通して少数です。
営業先のケアマネジャーやソーシャルワーカーの方の所へ定期的に訪問し、あなたのステーションの価値を伝え顧客育成してマインドシェアを獲得し維持することこそが最強の戦略となります。
定期訪問の頻度は商圏(訪問対象となるエリア)に対して月1回~2回を目安にして訪問しましょう。開設当初は月4回それ以上でも構いません。行動量を重視してください。ただ、同じケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんにアプローチするのではなく、他に所属しているケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんを紹介してもらえるようにアプローチしてください。
訪問看護の営業手法と営業体制の構築方法
ここまでは訪問看護ステーションの営業戦略をお伝えしてきましたが、ここからは具体的な方法(戦術)をお伝えしていきます。
訪問看護ステーションの営業方法は大きく分けて2種類あります。
アナログな手法を用いた営業
これは皆さんが日頃活動されている営業活動を指します。訪問と訪問の合間や隙間時間にケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんのところに訪問して、自社訪問看護ステーションの営業を行ったり相手の悩みや課題をヒアリングしたりするアポイント訪問もしくは飛び込み営業のことです。また、計画書や報告書の手渡しもアナログ営業に該当します。
デジタルな手法を用いた営業
電子メールでDM(ダイレクトメール)を送ったり、空き情報やトピックスを掲載したFAXを媒体としたDMを営業先に一斉送信したり、公式LINEやSNSを使って情報発信したりすること全般を指します。
このアナログ営業とデジタル営業を同時並行で実施し継続していくことが重要です。
営業体制の構築に必要な6つの具体策
営業体制を構築するうえで営業時に持っていく媒体や名刺、その他ツールの準備はとても大切です。また、営業活動で得た情報や地域の課題などの情報を蓄積していかなければなりません。これらを用意していないのは武器を持たず戦場を駆けずり回るのと変わりはありません。是非、これからお伝えする媒体やツールを準備しましょう。
①チラシやリーフレット・パンフレットの作成
まず、営業時に持っていく広告媒体の種類や役割を説明します。
多くの訪問看護ステーションの広告媒体やチラシを見てきましたが、どれも似たような構成で作られていて差別化になっていないケースが見受けられます。
パンフレットやリーフレットで事足りるのではないかと思われた方もいらっしゃると思いますが、リーフレットやパンフレットは自社のオフィシャルな広告媒体であり、ケアマネジャー様がご利用者やご家族にお渡しして説明するための媒体です。そして、会社の信用を訴求するためとても重要です。
営業チラシ
A4サイズ両面印刷仕様でステーションのコンセプトやストロングポイント(強み)、人員体制や空き情報、差別化を図るコンテンツを両面に纏めたチラシになります。
リーフレット
三つ折りの小さなパンフレット(主にご利用者向け)。ケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんがご利用者にお渡しする媒体。
パンフレット
会社概要や沿革、ステーションの特徴や強みを纏めたオフィシャルな資料。
ニュースレター
地域情報や業界情報、ステーションの取り組み、ご利用者やケアマネジャーに向けた情報紙。
ハガキ
営業時に好反応だったケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんに御礼を一筆入れたハガキ。
スティックレター
自社訪問看護ステーションに新規ご利用者をご紹介してくれたケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんにお渡しする感謝を綴った手紙。
ここで、チラシとハガキを使った事例を2つご紹介します。
【事例:USP(Unique Selling Proposition)を掲載したチラシを作成して配布】
まず、USPとは「自社が持つ独自の強み」を打ち出した差別化戦略のことです。
訪問看護における具体的なUSPとは、土日祝日定期訪問対応やリハビリ職の全職種在籍、夜間の定期訪問にも対応しているなどです。訪問看護サービスの中で、メディカルアロマの提供などもこれに該当します。他社訪問看護ステーションが対応していない独自の領域やサービスを打ち出すことが重要です。
ただ、これらはハード面(事業所の特徴)に過ぎません。ハード面だけではなくソフト面(スタッフの思い)も訴求する必要があります。
どのような訪問スタッフが在籍しているのかを顔写真と共にストーリー式自己紹介を記載しましょう。表面には事業所の特徴、裏面にはスタッフの紹介や想いを記載しましょう。この営業チラシを配布したところケアマネジャーやソーシャルワーカーさんに効果的に訴求でき、認知の浸透が加速しました。チラシを見て新規開拓が進みました。
【事例:御礼ハガキを営業後に郵送】
スタッフの集合写真を掲載したハガキを作成して空きスペースに本日、営業して話が弾んだケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんに向けて御礼を一筆入れてポストに投函します。翌日もしくは翌々日に送り先に届きくのでそのタイミングで御礼のハガキを送りましたと一報を入れましょう。今の時代、手間暇のかかるハガキを送る競合他社は少ないです。また、手書きのコメントを入れたハガキは貰い手も嬉しいものです。
そのため、居宅介護支援事業所にとって印象が残り、1か月目で3事業所ほど今まで接点のなかった居宅介護支援事業所から新規のご利用者を紹介していただきました。
②名刺の作成
名刺は会社名、事業所名、電話番号、FAX番号、役職、名前、取得資格、経歴などを記載した媒体ですが、これで記載が終わってしまっている名刺がなんと多いことでしょう。他社と同じ名刺では意味がありません。顔写真を掲載して顔を憶えてもらえるような構成にしましょう。顔出ししたくない訪問スタッフもいる場合はイラストなどを掲載してお渡しする相手に雰囲気を伝えるよう努めましょう。
【事例:ストーリー式自己紹介を記載する】
以下の流れで自己紹介文を作ります。
何故、看護師になりたいと思ったのか
看護師になって大変だったことや思い入れのあるエピソード
何故、訪問看護師になりたいと思ったのかこれからどんな訪問看護師になろうと決意しているのか
これらを名刺の裏面に記載することで、訪問スタッフのバックボーンや人柄を相手にイメージしてもらい、あなたに新規ご利用者をお願いしたいと思ってもらう流れを作ることができます。
実際に、名刺の裏面記載のストーリー自己紹介を見たケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんと会話が弾み、スタッフの認知向上に繋がりました。
③営業リストの作成
自社訪問看護ステーションの商圏内にある営業先を把握していないと営業活動はできません。訪問エリア内の居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問診療、病院の連携室のリストを作成しましょう。
④営業日報の導入
Excelやスプレッドシートに営業活動で得た情報を営業日報に記録して管理しましょう。
実に多くの訪問看護ステーションがケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんから見聞きした情報を管理していないです。せっかく足を運んで得た情報や地域のニーズを蓄積していないことは機会損失でしかないです。この作業を日々、積み上げていくことで必ずステーションのマーケティング強化に繋がります。
⑤新規進捗の管理シート
日々、地域のケアマネジャーさんやソーシャルワーカーさんから新規ご利用者をご紹介いただいた情報をExcelやスプレッドシートで管理しましょう。
ここで大切なのは、ご利用者さん都合でキャンセルになってしまった案件や自然消滅してしまったご相談ベースの案件も記録するということです。新規依頼が着地した案件は記録していても、これらの案件は管理していない訪問看護ステーションは多いです。お声がけしてくださったということは、あなたの訪問看護ステーションを信用信頼しているというサインです。しっかり記録して新規開拓できる可能性が高いということを把握することで機会損失を防ぐことができます。
⑥営業マップの整備
空き時間を有効活用できるようGoogleマップを活用しましょう。訪問の合間の空き時間でいかに効率的に訪問できるかが重要だからです。
具体的には、③営業リストの作成でお伝えした、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、病院、訪問診療と各Excelで作成した営業先リストをGoogleマップにインポートして営業先を可視化しましょう。全従業員に配布している社用携帯もしくはタブレットで営業マップが見れるよう共有しましょう。これで、訪問の合間やキャンセルになった隙間時間で可視化された営業先に効率良くアプローチすることが可能になります。
まとめ
ここでは、訪問看護の営業戦略ではマーケティングを取り入れることと、なるべく費用を掛けずにできる具体的な営業活動の手順や体制構築についてお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか。
あなたの訪問看護ステーションは、地域のケアマネジャーやソーシャルワーカーの方向けに差別化された訴求方法、適性な行動量でステーションの価値、スタッフの価値や魅力を伝え続けていますでしょうか。
訪問看護ステーション業界は競争が激化しております。もちろんエリアによってバラつきはありますが、いかに相手のマインドシェア(心の占有率)を獲得できるか維持できるかが全てなのです。
そしてこれらを獲得するには魔法のような方法はありません。信頼に基づいた関係だからです。しかし、今回ご紹介した戦略やマインドセットを実施している訪問看護ステーションは多くありません。あなたの訪問看護ステーションの成長の最大の敵は、「競争が激しくて営業しても意味がない...」という先入観なのです。
先入観こそが最大の敵、これは肝に銘じておかなければいけません。
この記事が、利用者獲得が難しいという訪問看護ステーション経営者の皆さまの参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。