【医師監修】訪問看護における認知症ケアとは?医療・介護保険の適用となる条件も解説
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とよだクリニック 院長 認知症予防・リハビリセンター センター長 豊田早苗
鳥取大学医学部卒業後、2001年に医師免許を取得し島根県内で内科医、総合診療医として勤務。2005年にとよだクリニックを開業し、翌年に認知症予防を推進するため認知症予防センターを開業。院長・同センター長を務める傍ら、地域の認知症予防教室の開催や書籍の執筆など、啓発活動も精力的に行っている。
目次
日本は超高齢社会を迎え、認知症と診断される方の数は年々増加しています。
在宅療養の推進により、訪問看護で認知症の方を訪問する機会はますます増えていることから、認知症の病態や看護の方針について把握することは重要です。
そこで今回は、認知症の基礎知識や医療・介護保険の適用条件、訪問看護における認知症看護のポイントについて解説します。
訪問看護師が把握すべき認知症の基礎知識
認知症とは、認知症診療ガイドラインで以下のように定義されています。
慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶・思考・見当識・理解・計算・学習・言語・判断など、多数の高次脳機能障害からなる症候群
(引用元:認知症診療ガイドライン2017_100_第1章.indd (neurology-jp.org))
認知症は病名ではなく、上記のような多数の脳機能障害があり、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態のことを示します。
まずは認知症の基礎知識として、原因疾患や有病率、症状について確認していきましょう。
認知症の有病率
65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみると、平成24年(2012年)は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者約7人に1人(有病率15%)でしたが、令和7年(2025年)には約5人に1人となるとの推計もあります。
(参考:内閣府「平成29年度版高齢社会白書」)
認知症の原因疾患で最も多いのは「アルツハイマー型認知症」
認知症の原因疾患では「アルツハイマー型認知症」が最も多く、全体の約70%近くを占めています。
次いで多いのは、血管性認知症で約20%、レビー小体型認知症は約4%、前頭側頭型認知症は1%になっています。
認知症の症状
認知症の症状は、脳の障害により直接起こる症状である「中核症状(認知機能障害)」と、中核症状に付随して起こる症状「周辺症状」または「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。
それぞれの症状について説明します。
【中核症状】
中核症状は、脳の器質的変化に伴う認知機能障害であり、認知症をもつ人には、以下のいずれかの症状を認めます。
記憶障害:新しいことを覚えられない
見当識障害:時間・場所・人がわからない
理解・判断力の低下:正しい物事の判断ができない、混乱してしまう
失語:伝えたいことがうまく伝えられなくなる
失行:日常の動作ができなくなる
失認:人や物事の認識ができなくなる
【周辺症状(BPSD)】
中核症状を背景として、元来の性格や生活史など個人の特性に加え、その時の健康状態や環境の変化、ストレス、不安などによって引き起こされた行動症状や心理症状のことをいいます。BPSDには、抑うつ・不眠・不安・焦燥・食行動の異常・徘徊・昼夜逆転・介護への抵抗・幻覚・妄想・攻撃的行動などがあります。
(画像引用:政策レポート 認知症を理解する|厚生労働省)
認知症の原因となる主な4つの疾患の特徴と症状
認知症の原因として、代表的な疾患は以下の4つです。それぞれの特徴について解説していきます。
アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
血管性認知症
前頭側頭型認知症
①アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、脳内に「アミロイドβ」という蛋白質が沈着すること等により引き起こされると考えられています。これにより神経機能が障害され、神経細胞が死滅する結果、脳の海馬(記憶を司る部位)から委縮が始まり、最終的には脳全体が委縮していきます。主な症状は記憶障害や失語、視覚失認、失行などが挙げられます。
②レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、レビー小体という神経細胞にできる特殊なたんぱく質が凝集したものが、脳の大脳皮質や脳幹に多数出現し、神経細胞が減少することで認知症を発症します。
視覚記憶や言語記憶を司る側頭葉と、視覚情報を処理する後頭葉が委縮するため、幻視や記憶障害、パーキンソン症状等が出現します。また、アルツハイマー型認知症と比べて海馬の萎縮は軽度であるため、初期には記憶障害が目立たないケースがあります。
パーキンソン症状には以下のような状態が挙げられます。
安静時振戦(何もしていない時に震える)
筋固縮(常に筋肉が緊張しており関節の動きが固い)
無動(動作の開始が難しい)
動作緩慢(動作が異様に遅くなる)
姿勢反射障害(バランスを崩した際の反射機能が障害を受け、転びやすい)
③血管性認知症
血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や、脳循環の不全状態が原因となって神経細胞の機能障害を生じ、認知症の症状を示す疾患です。症状は病変の部位、大きさ、分布によって様々で、経過も症状ごとに異なります。
一般的に記憶障害があっても判断力は保たれ、病識があることが多く、人格変化が起きることは少ないと言われています。
④前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉と側頭葉が委縮し、血流が低下することによって起こります。
脳の前頭葉は「人格・社会性・言語」、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」をコントロールしているため、この部分の委縮により、社会性の欠如(抑制が効かない・暴力など)、 同じことを繰り返す「常同行動」、感情の鈍麻、自発的な言葉の低下が症状として現れます。
認知症の訪問看護は介護保険と医療保険どちらが適用される?
認知症の方の訪問看護を提供するにあたり、「介護保険と医療保険、どちらが適用されるの?」という疑問をお持ちの方もいるでしょう。
これは利用者の年齢と疾患等の状態により適用となる保険が変わります。
①利用者が65歳以上の場合
利用者が65歳以上で「厚生労働大臣が定める疾病」に該当しない利用者の場合は、介護保険が適用されます。
一方で末期の悪性腫瘍・多発性硬化症・ALS・脊髄損傷・人工呼吸器を使用している状態など、以下20項目からなる別表7の「厚生労働大臣が定める疾病」に該当する場合は、医療保険による訪問看護が適用されます。
【別表第7(厚生労働大臣が定める疾病)】
末期の悪性腫瘍
多発性硬化症
重症筋無力症
スモン
筋萎縮性側索硬化症
脊髄小脳変性症
ハンチントン病
進行性筋ジストロフィー症
パーキンソン病関連疾患
多系統萎縮症
プリオン病
亜急性硬化症全脳炎
ライソゾーム病
副腎白質ジストロフィー
脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症
慢性炎症性脱髄性多発神経炎
後天性免疫不全症候群
頸髄損傷
人工呼吸器を使用している状態
②利用者が65歳未満の場合
利用者が40歳未満の利用者で、若年性認知症等を発症し訪問看護が必要と判断された場合は、医療保険の対象となります。
40歳以上65歳未満の利用者で、「2号被保険者の特定疾病」の16疾病に該当する場合は、介護保険が適用となります。
【2号被保険者の特定疾病】
末期腫瘍
関節リウマチ
筋萎縮性側索硬化症
後縦靱帯骨化症
骨折を伴う骨粗鬆症
初老期における認知症
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病※(パーキンソン病関連疾患)
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症
多系統萎縮症
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
脳血管疾患
閉塞性動脈硬化症
慢性閉塞性肺疾患
両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
上記に該当せず、別表7の「厚生労働大臣が定める疾病」に該当する場合は、医療保険が適用されます。
訪問看護の医療保険・介護保険の適用について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
認知症の利用者は精神科訪問看護を医療保険で利用できる?
原則、認知症で要介護認定を受けている方は介護保険が適用されます。
ただし利用者に対して医療機関が「精神科在宅患者支援管理料」を算定する場合、訪問看護では医療保険が適用されます。
「精神科在宅患者支援管理料」とは、重度の精神疾患等により通院が困難な利用者に対して、保険医療機関の医師などが訪問診療を行った場合に算定できる診療報酬のことです。
医療機関がこの管理料を算定し、精神科訪問看護指示書が交付された場合は、医療保険で訪問看護を行うことができます。
(参考:老老発0327第1号,保医発0327第8号「医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に 関連する事項等について」の一部改正について ,p4|厚生労働省)
訪問看護における認知症のケアとは?
訪問看護で認知症の利用者にケアを行う際は、利用者や家族を支援し、QOL(Quality of Life)を向上させることを主軸に置いて考えましょう。
QOL向上のためには、症状の進行を遅らせることと、身体機能の維持・向上と心理的安全を提供することが大切です。訪問看護における認知症ケアのポイントとして以下4つのポイントをご紹介します。
①日常生活の支援と環境整備を行う
認知症の症状により、日常生活における基本的な活動が困難になることがあります。食事や入浴、排泄、着替え等の日常生活の行動を実施する際は利用者の自立を促し、必要に応じて補助をするようにしましょう。
ADL(日常生活動作)の維持・改善と、利用者の「自分でできる」という気持ちを尊重するようにします。
また、利用者が安全かつ快適に過ごせるように、家具や日常生活で使う物品等の環境整備を行うことも重要です。転倒や転落等の事故を防ぐために住環境のアセスメントを行い、必要に応じて福祉用品の導入や物品の購入を家族に提案します。
② 認知症の段階に応じて医師やとケアマネジャーと連携する
医師の指示に従い、適切な用法・用量で服薬などの治療が継続されるよう支援しましょう。また、副作用の有無や利用者の服薬状況の確認を行うだけでなく、症状の進行状況を把握することを心がけます。
また認知症は進行性の疾患であるため、症状が変化するごとに医師やケアマネジャーと連携し、ケアプランや訪問看護計画書が症状に適しているかどうか、さらに、ADLの状況に応じて適切な服薬方法に変更できるかどうか等、都度ケアの方針を見直す機会を作ると良いでしょう。
特に、レビー小体型認知症では、向精神病薬(抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬など)への過敏性があり、薬が原因で症状が悪化することがあります。いつもと違う変化を感じたら医師に連絡することも心がけておきましょう。
③「パーソンセンタードケア」を意識しコミュニケーション方法を工夫する
利用者個人を尊重できるよう、「パーソンセンタードケア」の考え方を意識してケアを行いましょう。
パーソンセンタードケアとは、「認知症をもつ個人を尊重し、その人の立場に立って考えてケアを実践する」という認知症ケアの考え方の一つです。看護師は、利用者と接する中で、どのような原因から不安な様子や言動をきたしているのかアセスメントするようにしましょう。
またコミュニケーションをとる際は簡潔でわかりやすい言葉を使い、利用者が理解しやすい表現で話しかけるよう配慮します。さらに非言語的なコミュニケーション(表情やジェスチャー)も用いて安心感を与えるようにしましょう。
(参考:パーソン・センタード・ケア | 公益財団法人長寿科学新興財団)
④家族の負担を軽減する支援を行う
認知症のケアは家族にとって大きな負担となることが多いため、家族へのサポートも訪問看護師の重要な役割です。
家族には利用者へのケアの方法や接し方を指導し、コミュニケーションの不和により利用者と家族の間で衝突が起きないようサポートします。
また、家族の介護による身体的・精神的負担を軽減できるよう、コミュニティや社会資源等を紹介し、適切な支援が受けられるようサポートします。
「公益社団法人認知症の人と家族の会」の電話相談、複数の自治体等でモデル事業として始まっている「認知症の人と家族の一体的支援プログラム」なども参考にしてみるといいでしょう。
まとめ
認知症の症状や原因に関する基礎知識や、認知症の訪問看護におけるポイントについて紹介しました。
訪問看護の場面では、認知症の利用者さんも多く、訪問看護に携わる熟練した看護師でさえも、「どのように対応すべきだったのだろう?」と自問自答する機会が多いと聞きます。
一人ひとりの状況に合わせた看護を提供できるよう、この記事が少しでもお役に立てたら幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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