訪問看護ステーションの感染防止対策とは?
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株式会社エス・エム・エス カイポケ訪問看護マガジン編集部
看護師や介護事業所の運営経験者、訪問看護の請求ソフトや電子カルテの導入支援経験者など、医療や介護、訪問看護の現場理解が深いメンバーが在籍。訪問看護ステーションの開業、経営、日々の看護業務に役立つ情報を発信します。
目次
訪問看護ステーションの運営を行う上で、利用者ならびに職員の感染対策は非常に重要です。一方で、病院やクリニックとは環境が異なる中で、訪問看護ではどのように感染防止対策を取るべきなのかと悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、訪問看護ステーションが注意すべき感染症について、予防とまん延防止のための基礎知識、マニュアルの作成・運用方法などをご紹介します!
感染症対策の基礎知識
ここでは感染症の基礎知識として、「感染症の種類」、「感染が成立する3大要因」と「感染症対策の3つの柱」について詳しくみていきましょう。
感染症の種類
訪問看護の現場で注意すべき感染症は、以下のような種類が挙げられます。
新型コロナ
インフルエンザ
結核
ノロウイルスによる感染性胃腸炎
疥癬
梅毒
薬剤耐性菌
水痘・帯状疱疹ウイルス
ウイルス性肝炎
感染が成立する3大要因
感染症は、『病原体の存在である感染源』、『病原体が入り込む感染経路』、『病原体が入り込んだ先に感受性があること(感受性宿主)』、以上3つの要因が揃うことで発生します。この感染源、感染経路、感受性宿主の3つは感染成立の3大要因と呼ばれています。
感染症対策の3つの柱
感染症対策の3つの柱とは、感染成立の3大要因それぞれに対する対策であり、下記になります。
病原体の排除
感染経路の遮断
宿主の抵抗力の向上
感染の3要因がすべて揃わないと感染が成立しないことから、これら3つの要因を断つことが感染症対策となります。具体的な方法については下記のようなものがあります。
感染症対策の柱 | 具体的な感染対策 |
感染源の排除 | 手洗いや手指消毒の施行、適切な感染防護服の着脱と使用、汚染物の片付け |
感染経路の遮断 | 手指消毒やテーブル・ベッドなどの環境消毒、マスクの使用 |
宿主の抵抗性の向上 | 生活習慣の改善、ワクチン接種など |
(参考:介護現場における感染対策の手引き第2版|厚生労働省)
感染症対策の基本的な行動
感染症対策の基本的な行動は、『スタンダードプリコーションの徹底』と『感染経路別の予防』になりますので、詳しくみていきましょう。
スタンダードプリコーションの徹底
感染症対策を実行するにあたって、標準予防策であるスタンダードプリコーションを徹底することが大切です。
スタンダード・プリコーションとは、『汗以外の全ての体液や血液、分泌物、排泄物は感染の可能性があるものとして取り扱う』という考え方であり、この考え方を意識してケアにあたることが重要です。具体的には以下のような行動をとります。
血液などの体液(汗を除く)は素手で扱わない
口腔内などの粘膜も素手で扱わない
発疹・傷があり血液や浸出液が出る可能性のある皮膚は素手で触らない
感染経路別の予防
スタンダード・プリコーションの徹底は感染対策の基礎として非常に大切ですが、この行動と共に、感染経路別に感染源の排除を行うことも非常に大切です。空気感染、飛沫感染、接触感染の3つの感染経路別に分けて予防策を解説します。
空気感染
空気感染とは、空気中を浮遊している病原体を含む小さな粒子が拡散され、これを吸い込むことによる感染を指します。空気感染を引き起こす飛沫核は水分を含まず長時間にわたって空気中を漂うことができ、気流に乗って病原体が移動しやすいので、感染者から離れた場所にいても感染リスクがあります。
空気感染する主な感染症は以下のようなものが挙げられます。
結核
麻疹
水痘など
空気感染への対策は、以下のような方法があります。
こまめに換気を行う
手指消毒・手洗いを徹底する
看護師はN95マスクを着用する
利用者はサージカルマスクを着用する
3密を回避する
飛沫感染
飛沫感染とは、病原体を含んだ咳やくしゃみ、会話などの際に病原体を含んだ5ミクロン以上の大きな粒子が飛散し、他の人の鼻や口の粘膜あるいは結膜に接触することにより発生する感染を指します。感染者と1m以内の距離で接する際に伝播され感染する危険があり、2~3m離れると飛沫が届きにくいと言われています。飛沫感染する感染症には以下のようなものが挙げられます。
新型コロナウイルス
インフルエンザ
マイコプラズマ肺炎
風疹
百日咳
RSウイルス
飛沫感染への対策は、以下のような方法があります。
サージカルマスクを着用する
こまめに換気を行う
手洗い・うがいを徹底する
接触が多い設備(手すり、ベッド柵など)の消毒を行う
接触感染
接触感染とは、皮膚や粘膜・創部との直接的な接触、もしくは汚染された医療器具等を介した間接的な接触による感染経路を指します。感染者に接触した看護師や介護者の手から媒介・伝播される場合があります。
接触感染する感染症には以下のようなものが挙げられます。
ノロウイルス
疥癬
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
接触感染への対策は、以下のような方法があります。
手袋を着用してケアを行う
感染性のある体液を扱うときは長袖ガウンを着用する
手指消毒・手洗いを徹底する
接触が多い設備(手すり、ベッド柵など)の消毒を行う
訪問看護における感染症予防とは
訪問看護における感染リスクは、
利用者経由での感染
廃棄物からの感染
事故による曝露
ステーション内での感染
があります。
ここでは、それぞれの感染リスクに対して、具体的に予防策をみていきましょう。
利用者経由での感染の予防
利用者経由での感染を予防するために大切な3つのポイントについて解説します。
①感染兆候がないかアセスメントを行う
訪問時はバイタルサイン測定をもとに感染の兆候がないかアセスメントすることが重要です。「発赤」、「発熱」、「腫脹」、「疼痛」「機能障害」を「炎症の5兆候」と言い、これらを確認することで感染の兆候を知ることができます。
あらかじめ感染が分かっている場合には、滞在時間の短縮のため、訪問前に電話連絡をし、実施するケアをあらかじめ確認・調整しておきましょう。
②カテーテルや医療機器などを清潔に管理する
利用者が使用する医療機器等からの感染を防ぐための行動をとることが重要です。
吸引や気管内吸引カテーテルは、使用後にアルコール綿で拭き、カテーテル外側に付着した分泌物を取り除きます。その後、チューブ内を洗浄してから清潔な容器等に保管しておくことが基本です。
ネブライザーや経管栄養の器具は24時間毎に洗浄、消毒をします。また、滅菌されているガーゼやカテーテルなどは期限が切れていないか定期的に確認します。
※医療機器の消毒方法は、各訪問看護ステーションのマニュアルやルールに沿って実施しましょう。
③同居家族も含め利用者に適切な感染予防の行動をとってもらう
在宅療養においては、利用者や同居家族にも感染対策の重要性を理解していただき、適切な感染予防の行動をとってもらうことが非常に重要です。感染対策の必要性にお伝えし、行動をとってもらうためには、日ごろの利用者や家族への関わり方が大事になってきます。また、感染症の流行時期に合わせて感染対策のお知らせを配布するのも良いでしょう。
廃棄物からの感染の予防
在宅ケアで出るゴミは「在宅医療廃棄物」と呼ばれ、対応の原則は「自治体の廃棄ルールに沿って対応し、感染性のある廃棄物に誰も触れないように処分すること」です。在宅医療廃棄物のうち、針などの鋭利なもの及び血液や体液の付着があるカテーテル類は金属製もしくはプラスチック製の貫通性のないリサイクル容器に保管し、各自治体の処分方法に沿って廃棄します。
鋭利なものや、体液の付着がみられないゴミは一般ごみとして出して良いことになりますが、ゴミには直接触れず、封をして廃棄しましょう。また、ゴミを捨てた後は石鹸等を使って必ず手を洗いましょう。
それ以外にも、利用者の家族に対しても、適切な廃棄方法を伝え、廃棄物からの感染を予防できるようにしましょう。ステーションで再利用する物品は、病原体の付着を予防するため、消毒を実施し、ビニール袋等に入れて持ち帰るようにしましょう。
事故による曝露の予防
ケア中やケア後は、針刺し事故や切創・粘膜との接触によるB型肝炎やC型肝炎、HIVなどのウイルスによる感染の恐れがあります。使用済みの針は針刺しを予防するため、以下のような対策をとりましょう。
リキャップをしない
受け渡しをしない
血液などの感染性のある物質と接触する場合は手袋を着用する
在宅で針捨ての専用容器を準備することが難しい場合は、耐貫通性のある代用の容器を使って廃棄しましょう。
ステーション内での感染の予防
ステーション内でのスタッフ同士での感染を防止するため、ステーション内でのマスクの装着や換気の徹底などを行いましょう。時間差出勤や直行直帰など、ステーションで顔を合わせる時間を減らすことも有効です。また、ミーティングの方法をオンラインにすることや、共同で使用する物品の定期的な消毒を行うことも検討しましょう。
訪問看護ステーションの感染対策マニュアルの作成と運用
感染対策では、ステーションに感染対策マニュアルを整備し、管理者を含めたスタッフ全員がマニュアルに沿った行動を取ることがとても重要です。
ここからは、感染対策マニュアルの作成と運用についてみていきましょう。
感染対策マニュアルの作成
職員全員が感染予防に対する知識や技術の習得し、利用者やその家族に安全で適切な看護を提供できるよう、感染対策マニュアルを作成しましょう。
訪問看護における感染予防・拡大防止は、利用者やその家族および職員の安全を守るために必要なことです。訪問看護師は、利用者の感染予防を行うとともに感染防止に努めることも重要な役割の一つと言えます。
徳島県看護協会や埼玉県訪問看護ステーション協会が公開している感染対策マニュアル、厚生労働省の介護現場における感染症対策の手引きを参考に感染対策マニュアルを作ると良いでしょう。
感染対策マニュアルの運用
感染対策マニュアルは、作成するだけでは感染予防につながりません。マニュアルの内容に沿って感染予防対策がとれるよう、適切に運用しましょう。
感染対策マニュアルの内容を日ごろから取り組むための具体例として以下のような行動が挙げられます。
感染対策のフローをイメージできるようマニュアルに沿って研修を行う
日常の観察項目に取り入れられるよう感染症を理解するための勉強会を行う
マニュアルのインデックス(内容の整理)を行う
いつでも持ち運びできるようにする
必要に応じて内容を見直し・更新する
実際には、いつ何時、感染症の疑いのある方を訪問するかわかりません。そのため、日ごろからマニュアルで全体フローのイメージを持っておくことが大事です。
また、マニュアルは持ち運びができ、マニュアルのどこに何が書かれているのかすぐに調べられるようにしておくと良いでしょう。そして必要に応じてマニュアルの内容を確認し、更新していくことを心がけます。
訪問看護ステーションの感染症対策のポイント
ここからは、訪問看護ステーションの感染症対策のポイントを3つ解説していきます。
①日常的な職員の健康管理
職員は毎日検温を実施し、37.5 度以上の発熱やのどの痛み、咳、倦怠感がある場合は、「「自宅待機とする」などの対応を決めておきましょう。発熱がない場合でも他に症状がある場合は、抗原検査キットを用いて感染の有無を確認してから出勤するようにルールを決めましょう。
感染症の流行時期に備えてワクチン接種の機会を職員に提供したり、感染症の流行時期にステーション内でマスクの着用を徹底したりなど、職場とそこで働く職員が協力して感染予防に取り組みましょう。
②対策方法が分からない場合は相談窓口に連絡する
新興感染症が発生し、正しい感染対策の方法が分からない場合は、行政からの情報収集に努めることが大切です。各自治体の保健所に相談し、近隣の医療機関と連携して適切な感染対策を実施しましょう。
このほか、日本看護協会の相談窓口や、各都道府県の訪問看護ステーション連絡協議会や訪問看護総合支援センターに問い合わせることも情報を収集するための方法の一つです。
③感染症の流行時期は集まる機会を減らす
冬のインフルエンザ流行時期をはじめ、感染症流行時期は職員会議や研修などオンラインで実施できることは開催の方法を見直すと良いでしょう。パソコンやタブレット、スマートフォンから参加できるWEB会議ツールを導入することで、簡単にオンラインで会議や研修を実施することができます。
まとめ
感染症対策の基本、訪問看護における感染予防、対策について解説しました。感染対策マニュアルを用意する際や、感染予防をステーション内で推進していく際の参考にしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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