【2026年度診療報酬改定】訪問看護についての議論(課題と論点)
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この記事は2025年11月12日時点の情報をもとに作成しています。
株式会社エス・エム・エス カイポケ訪問看護マガジン編集部
看護師や介護事業所の運営経験者、訪問看護の請求ソフトや電子カルテの導入支援経験者など、医療や介護、訪問看護の現場理解が深いメンバーが在籍。訪問看護ステーションの開業、経営、日々の看護業務に役立つ情報を発信します。
目次
2026年度(令和8年度)診療報酬改定に向けて中央社会保険医療協議会(以下、中医協)で検討が行われています。
この記事では、中医協で行われている議論についてわかりやすくまとめています。
訪問看護の現状
訪問看護の利用者数の推移
訪問看護ステーションの利用者数は、医療保険、介護保険ともに増加傾向にあります。
(画像引用:中央社会保険医療協議会総会(第626回)資料 在宅について(その3)p.27 より)
医療保険の訪問看護ステーションの利用者の状態
医療保険の訪問看護の利用者の主傷病は、「精神および行動の障害」が最も多く、年々増加しています。
(画像引用:中央社会保険医療協議会総会(第626回)資料 在宅について(その3) p.29より)
規模別の訪問看護ステーション数の推移
訪問看護ステーションの事業所数は増えており、その中でも看護職員数が『5人以上』の事業所の割合が増加しています。
(画像引用:中央社会保険医療協議会総会(第626回)資料 在宅について(その3) p.30より)
2026年度診療報酬改定に向けた訪問看護の議論の内容(課題と論点)
精神科訪問看護について
課題
精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会において、地域包括ケアシステムの推進のため、精神障害者や精神保健に課題を抱える者に対する地域における看護・ケアの拠点となる訪問看護事業所が求められることが示されている。
機能強化型訪問看護管理療養費3においては、精神科重症患者支援管理連携加算の利用者数が実績要件の対象となっている。しかし、精神科重症患者支援管理連携加算は、医療機関が精神科在宅患者支援管理料を算定した場合のみが対象となっており、精神科在宅患者支援管理料が普及していない中では算定が難しい。
精神科訪問看護における支援ニーズの高い利用者として、「周産期・子育て期にある」「ひきこもり状態にある」「精神科への未受診または治療を中断している」「身体合併症がある」「暴力または迷惑行為がある」「小児である」「医療依存度が高い身体疾患をもつ」が挙げられている。
精神科訪問看護療養費を算定する利用者の割合が高い訪問看護ステーションほど、別表第7及び別表第8に該当する利用者の割合が低い傾向にあり、身体疾患や医療処置が発生したため他のステーションに移管した利用者が「有」の事業所があり、精神障害を有する利用者が身体合併症を併発した場合に、対応が困難な事業所があると考えられる。
精神科訪問看護を行う事業所における多職種・他機関との連携として「退院カンファレンスへの参加」、「多職種連携会議への参加」等が多く、このような活動を通じて、地域等と顔の見える関係を構築していると考えられる。
論点
精神科訪問看護に求められる機能を踏まえ、地域と連携し精神科訪問看護を提供する機能の高い訪問看護ステーションの評価のあり方についてどう考えるか。
難治性皮膚疾患を持つ利用者への訪問看護について
課題
表皮水疱症は、先天的素因により、日常生活で外力の加わる部位に水疱が反復して生ずることを主な臨床症状とする一群の疾患である。
潰瘍や水疱が発生することに伴い、ケアを繰り返し実施する必要があり、看護では皮膚状態の観察を行い、状態に応じて、洗浄や水疱穿刺、ドレッシング材の選択等を行っている。
在宅難治性皮膚疾患処置指導管理は週4日以上の訪問看護が可能な別表第8に規定されていない。
論点
訪問看護師による手厚いケアのニーズがある重症な難治性皮膚疾患の利用者の状況を踏まえ、在宅難治性皮膚疾患処置指導管理を別表第8に追加することについてどう考えるか。
妊産婦及び乳幼児への訪問看護について
課題
令和6年度診療報酬改定で乳幼児加算について、利用者の状態に応じて区分しそれぞれの評価を設けることとされた。
乳幼児加算の算定状況は増加傾向で、そのうち別に大臣が定める者に該当する割合は42.0%であった。
母親がうつ病等の疾病で訪問看護が必要な場合、訪問時に看護の一環として、子の世話を補助する等の育児支援を同時に行うことがあり、また、乳幼児の患者に対する看護の一環として、母への育児指導を行うことがあるが、こうした母子に対する訪問看護の取り扱いが明確でないため、現場の運用が不安定になるとの指摘がある。
論点
妊産婦及び乳幼児の利用者への質の高い訪問看護の推進についてどう考えるか。その際、育児支援を主な目的とした訪問看護は診療報酬の対象とならないことを明確化する一方で、傷病を原因として在宅で療養する妊産婦や乳幼児の利用者本人の訪問看護を行う場合に、その一環として、本人へのケアと併せて、子の育児の支援や、母の育児指導等を行う場合に、こうした時間が訪問看護の提供時間に含まれることを明確化することについて、どう考えるか。
訪問看護ステーションにおけるICTを用いた情報連携について
課題
保険医療機関における保険医療機関以外の関係機関との連携状況をみると、患者情報を共有している連携施設の種別について、「訪問看護事業所」が70.4%と最も多かった。
常時情報を閲覧可能なシステムによるICTを用いた関係機関との平時からの連携体制の構築状況について施設別にみると、訪問看護ステーションは「構築している」が58.1%であった。
訪問看護ステーションにおいて、他医療機関等とのICTの連携体制が構築され連携している状況があるものの、他機関等とICTを用いて情報を連携し訪問看護に活用したことに対する評価の加算等はない。
論点
訪問看護事業所と患者情報を共有する医療機関が多く、訪問看護ステーションにおいてもICTを用いた関係機関との平時からの連携体制が普及してきていることを踏まえ、訪問看護ステーションが地域の関係機関等とICTを用いて情報連携して訪問看護に活用した場合の評価を設けることについてどう考えるか。
訪問看護指示書の交付に係る取り扱いについて
課題
訪問看護指示料等は、訪問看護指示書を訪問看護ステーション等に対して交付した場合に算定でき、疑義解釈では「医師の所属する医療機関が準備し、その交付についても医療機関の責任において行うもの」と示している。
医療機関における訪問看護指示書の郵送にかかる費用負担先の認識は統一されていない状況がある。
論点
訪問看護指示書の交付に係る郵送代について、訪問看護指示書を交付する保険医療機関が負担することを明確化することについてどう考えるか。
訪問看護に係る安全管理体制について
課題
訪問看護ステーションの約9割が医療事故・インシデントの件数を把握しており、約8割が事故防止・安全管理体制に関する教育・研修の機会が設けられている。
医療法においては、医療の安全を確保するための指針の策定、研修の実施、医療安全管理委員会の設置等が義務づけられている。
論点
訪問看護において事故やインシデントが一定発生していることや保険医療機関では医療安全に関する研修の受講が義務づけられていることから、訪問看護ステーションの従事者が医療安全に係る研修を受講することについてどう考えるか。
訪問看護の記録等について
課題
精神科訪問看護を提供する訪問看護ステーションが頻度変更を判断するプロセスにおいて、複数のスタッフで検討する仕組みやアセスメントを明文化する取組がなされ、慎重に判断している実態があった。
訪問看護ステーションが情報等を電子的方法で提供等する場合やビデオ通話で共有等する場合において「医療情報システムの安全管理ガイドライン」を遵守することを求めている。一方、訪問看護の運営基準の「記録の整備」において、「医療情報システムの安全管理ガイドライン」の遵守を求めるような記載はない。
論点
より質の高い訪問看護の提供の実現に向け、指定訪問看護において求められている記録等に、実施した看護に係る看護過程の評価と当該評価に基づくアセスメントや、実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載すること等を明確化することについてどう考えるか。
過疎地域等の訪問看護について
課題
過疎地域等における訪問看護の評価として特別地域訪問看護加算が設けられており、算定件数は微増傾向だが、利用者全体の算定割合は横ばいである。
特別地域訪問看護加算で定める特別地域に所在している訪問看護ステーションでは、移動時間が1時間を超えない場合であっても、遠距離の移動を要したり、ケアの時間を含めて長時間を要するなど、非効率なサービス提供を余儀なくされている場合がある。
論点
特別地域訪問看護加算について、移動時間のみによる評価となっているが、移動及び訪問看護の提供の合計にかかる時間が極めて長い場合も含めて評価することについてどう考えるか。
最後に
この記事は、2025年11月12日時点の議論で用いられている情報をもとに作成していますので、すべての項目について改定が行われることが確定しているわけではありません。
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