小児訪問看護ではどのようなケアを提供するの?ニーズ、対象の疾患、算定できる加算を解説!
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この記事は2024年度報酬改定時点の情報をもとに執筆しています


看護師 ささまほ
国立大学を卒業後、大学病院、障がい者福祉施設、離島クリニックの外来と訪問診療での勤務を経て、現在は訪問看護師として9年目。在宅分野での豊富な経験と知識を活かし、『現場とWebから、誰もが自分らしい最期を送れる社会を』をモットーに、在宅医療専門ライターチームを運営。執筆・編集業でも活躍中。 正しい医療知識を広める会所属。
目次
医療的なケアが必要な子どもが増加している現在、小児を対象とした訪問看護が注目されています。
この記事では、小児訪問看護のサービス内容や対象疾患、利用ニーズの背景を詳しく解説します。また、小児訪問看護を導入するメリットや算定可能な加算といった、経営・現場で役立つ情報についても触れていますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
小児訪問看護とは?
小児訪問看護とは、病気や障害を抱える子どもたちが自宅で安心して生活できるようサポートするサービスのことです。単に医療行為を提供するだけでなく、子どもと家族の生活の質(QOL)の向上に大きく貢献する重要な役割を担っています。
小児訪問看護の対象者
小児訪問看護の対象は、基本的に0歳から18歳の子どもです。
主に特定の疾患や医療的なニーズを持つ子どもたちが利用しています。また、子どもだけではなく、保護者へのサポートも大切な役割のひとつです。
成長や発達の過程によって必要なケアが異なるため、それぞれの年齢や状態に合わせた支援を行います。
小児訪問看護の対象となる疾患の例
小児訪問看護は、先天性の疾患・出産時のトラブルによる障害・成長過程で罹患した病気など、さまざまな症状に対応する必要があります。
小児訪問看護の対象となる主な疾患は以下のとおりです。
小児がん
先天性疾患(心疾患、染色体異常、代謝異常、奇形など)
出生時障害による脳性麻痺
在宅酸素療法管理を必要とする疾患
在宅人工呼吸器管理を必要とする疾患
人工肛門や人工膀胱の管理を必要とする疾患
てんかん など
(参考:令和4年度 厚生労働省委託事業 在宅医療関連講師人材養成事業 研修会p.16|公益財団法人 日本訪問看護財団事業部 菊地よしこ)
これらの疾患は単独で発症することは少なく、複数の病気が同時に見られる子どもが多いことも特徴です。 例えば、脳性麻痺のある子どもに、てんかんや知的障害が一緒に見られるケースも少なくありません。そのため、小児訪問看護師には、多様な疾患への理解と、それぞれの症状に合わせて適切に判断し、ケアを提供する能力が求められます。
医学の進歩に伴い医療的ケアが必要な子どもが増え、在宅で生活する子どもへのケアもより高度になってきているのが現状です。
医療的ケア児とは
医療的ケア児とは、日常生活、社会生活を営むために医療的ケアを受けることが常に必要な児童(18歳以上の高校生等も含む)を指します。
医療的ケアを必要とする頻度や内容は子どもによって異なり、日常動作の自立度(ADL)や医療依存度もさまざまです。
<医療的ケア児の例>
肢体不自由と知的障害の両方を持つ(重症心身障害児)
知的障害はないが肢体不自由を伴う(肢体不自由児)
肢体不自由や知的障害は伴わない
医療依存度が高い子どものほとんどが、家族の力だけで在宅療養しているといわれています。
医療的ケア児と家族の孤立を防ぐためにも、小児訪問看護の必要性は高いといえるでしょう。
小児訪問看護は医療保険が適用
小児訪問看護は、医療保険が適用されるサービスです。
訪問看護の医療保険・介護保険の適用条件は以下の通りです。
医療保険による訪問看護 | 介護保険による訪問看護 |
(1) 40歳未満 (2) 40歳以上65歳未満で ・16特定疾病(※1)の対象者ではない方 ・介護保険第2号被保険者でない方 (3) 65歳以上で ・要支援、要介護に該当しない方 ・介護保険を利用しない方 (4) 要介護・要支援の認定を受けた方で ・厚生労働大臣が定める疾病等(※2)に該当する方 ・精神科訪問看護が必要な方(認知症は除く) ・特別訪問看護指示期間にあたる方 |
(1) 65歳以上 ・要支援・要介護と認定された方 (2) 40歳以上65歳未満で ・16特定疾病(※1)の対象者で要支援・要介護と 認定された方 |
(※1)がん末期、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、脳血管疾患など
(※2)人工呼吸器を使用している状態、重症筋無力症、脊髄小脳変性症など
(参考:訪問看護のしくみ|厚生労働省)
医療保険の適用を受けるためには、主治医が訪問看護の必要性を認め、訪問看護指示書を発行することが条件です。この指示書をもとに訪問看護サービスを提供し、子どもの健康維持や生活支援を行います。
小児訪問看護で提供するケア
小児訪問看護では、子ども一人ひとりの状態や家族のニーズに合わせた多岐にわたるケアを提供します。看護師は、専門的な知識と技術に基づき、子どもの発達段階や疾患特性を考慮した個別的なケアを提供する必要があります。
医療的ケアの提供
小児訪問看護では、生命維持に直結する医療的ケアが提供されます。特に小児の場合は、成長発達に応じた調整や、活動・啼泣時の対応など、よりきめ細かな管理が必要です。具体的には以下のようなケアを行います。
人工呼吸器の管理
気管切開の管理と吸引
経管栄養管理
在宅酸素療法の管理
人工肛門の管理 など
(参考:2018年時点の全国の訪問看護ステーションにおける小児の訪問看護の実態からみた課題p.7|日本看護研究学会雑誌)
全身状態を観察しながら、医療機器の取り扱いや管理を行います。
利用者の体調によっては緊急の訪問を行うこともあります。
日常生活の支援や介助
医療的ケアだけでなく、子どもが安全に、そして健やかに日常生活を送れるよう、成長発達に合わせた以下のような日常生活のサポートも行います。
食事介助
清潔保持のケア
入浴介助
移動・移乗の介助
利用者の家族が日々行っていることを、訪問時に行います。
病院のような設備はなく、各家庭にあるもので工夫して実施していくため家族とよく相談しながら実施することが特徴です。とくに入浴は家族が子どもを抱えながら一緒に入浴しているケースもあるため、利用者や家族の状況をみながら入浴方法を考えていく必要があります。
家族からの相談対応、指導
医療的ケアが必要な子どもを育てる家族は不安や負担を感じることが多く、家族のケアも大切な役割のひとつです。
中でも、長期間家族のみでケアを担ってきた場合、独自の介護方法が確立されていたり、外部サービスへの不安を感じていたりすることがあります。そのため、家族の思いに寄り添いながら、徐々に信頼関係を築いていくことが重要です。
具体的には、以下のようなサポートを行います。
医療的ケアの指導
療養生活に関する相談対応
一時預かり事業や放課後等デイサービスなどの社会資源の提案
家族が自信を持ってケアできるようになることで、子どもの生活がより安定します。
教育や遊びなどを通した発達支援・リハビリ
発達支援も小児訪問看護の重要な役割のひとつです。遊びや活動を通じて、子どもが成長し、自分らしく生活できるように以下のようなサポートをします。
発達段階に応じた支援
遊びを活用したリハビリテーション
専門職との連携
遊びを通して楽しく関わりながら子どもの可能性を広げ、将来の社会参加に向けた土台を築きます。必要に応じて、訪問看護ステーションに在籍する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職がチームで対応します。
以下は、具体的な発達支援の例です。
乳児期(0~1歳)
姿勢保持の支援
発声や表情での交流
音や光、触覚を使った遊び
幼児期(1~6歳)
座位での活動支援
コミュニケーションツールの活用
感覚遊びの工夫
学童期(6歳~)
学習環境の整備支援
通学に向けた準備
友達との交流支援
留守番看護(家族が外出する間、看護師が自宅で子どものケアを代行すること)
行事参加へのサポート(家族行事や学校イベントなど、子どもが参加できるよう長時間のケアを行うこと)
これらの発達支援は、子どもの発達段階や興味に合わせて、家族と相談しながら進めていきます。
家族全体の支援(留守番看護等)
小児訪問看護では、家族全員が無理なく生活を続けられるよう、以下のようなサポートも提供します。
利用者だけではなく、家族全員の生活を支えるのも小児訪問看護の大切な役割です。きょうだいがいる場合、母親ときょうだいで過ごす時間を確保するといった支援も行います。
家族全員が笑顔になることで利用者のQOLも向上するでしょう。
小児訪問看護のニーズは増えている
小児訪問看護の今後の展望について解説します。
小児訪問看護の利用者数
過去10年間で新生児医療が進歩したことにより、小児訪問看護の利用者数は大きく増加しています。
2011年の利用者数は3,467人でしたが、2021年には9,424人となり、10年で約3倍に増えています。
(参考:訪問看護療養費実態調査2011年度/訪問看護療養費実態調査2021年度)
今後もニーズが増えると予想されている
医療の発展により日本の新生児死亡率は1000人中1名と、世界的に見ても非常に低い水準を維持しています。その結果として、命をつなぐ医療的ケアを必要とする子どもが増加しています。
(参考:世界子供白書2023)とくに、重症心身障害児や医療依存度の高い子どもの数は増加傾向にありますが、こうした児童が療養できる施設の整備は十分とはいえません。そのため、自宅療養を必要とする家庭が増えているのが現状です。
今後も、医療のさらなる発展に伴い、訪問看護を必要とする子どもの数は増加していくと考えられています。訪問看護は、そうした子どもたちが自宅で安全かつ快適に過ごせるよう支える重要な存在であり、家庭と社会をつなぐ役割を果たしています。
小児訪問看護をはじめるメリット
小児訪問看護は、利用者である子どもや家族の生活を支えるだけでなく、提供する事業所にとっても新たな成長や地域貢献の可能性を広げる取り組みとなります。
小児訪問看護を提供できる訪問看護ステーションが少ないため差別化できる
小児訪問看護を提供できるステーションは全国的に限られています。調査によると、全国の訪問看護ステーションのうち、小児への訪問実績があるステーションは全体の3割前後といわれています。
(参考:2018年時点の全国の訪問看護ステーションにおける小児の訪問看護の実態からみた課題|日本看護研究学会雑誌)
そのため、小児訪問看護に対応したサービスを展開することで、地域のニーズに応えられる強みとなるでしょぅ。
加算が算定できる
小児訪問看護を行うことで以下のような加算を算定することができ、収益面でのメリットがあります。
乳幼児加算
6歳未満の利用者を対象とし、訪問看護を実施することで算定できる加算です。
2024年度の診療報酬改定で、算定料の見直しがありました。別に厚生労働大臣が定める者に該当する場合は、1,800円/日、それ以外の場合は1,300円/日が算定されます。
長時間訪問看護加算
1時間30分を超えて訪問看護を提供する場合に算定できる加算です。長時間の訪問を必要とするケアに対し、5,200円/日が算定できます。
関係機関との繋がりが増える
小児訪問看護を実施する中で、病院や療育施設、学校などの関係機関との連携が増えます。これにより、利用者への包括的なケアを実現するだけでなく、事業所としてのネットワークを広げ、地域医療・福祉への貢献度も高まるでしょう。
小児訪問看護を提供することで、利用者だけでなく、事業所としての成長や地域社会での役割も大きく広がります。
小児訪問看護をはじめる際の注意点
小児訪問看護を提供するには、利用者の多様なニーズに応えつつ、事業所として安定した運営ができる体制を整えることが大切です。
小児の発達段階に配慮した看護技術が必要とされる
小児訪問看護では、子どもの発達段階に合わせた看護が求められます。新生児、乳児、幼児、児童といった成長段階に応じて、身体的・心理的な特徴を理解し、ケアを提供する必要があります。
また、小児看護の経験がある看護師を確保するのは簡単ではありません。そのため、事業所内で看護師を育成する環境づくりも大切です。研修の実施や教育制度の整備を行い、スタッフが小児ケアに対応できるようサポートする仕組みの構築が求められます。
特に医療的ケアが必要な重症児の場合は、安全確保のため複数名での訪問が必要なケースもあり、適切な人員体制の整備が欠かせません。また、24時間の連絡体制も必要となるため、オンコール体制の工夫やスタッフの負担軽減策も重要な検討事項です。
訪問看護療養費・加算を算定できない依頼を受けることがある
小児訪問看護では、訪問看護療養費や加算でカバーできない依頼を受けることもあります。
長時間にわたる訪問の依頼
例えば、2時間半以上の長時間に及ぶ留守番対応を依頼される場合があります。しかし、長時間訪問看護加算は1日あたり5,200円と決まっているため、報酬が実際の業務負担に見合わない可能性もあります。
そのため、こうした依頼を受ける際には慎重な判断が必要です。
病院への通院時の付き添いの依頼
病院での診察や治療への通院時、看護師の付き添いを求められるケースもあります。しかし、これも長時間の訪問となることが多いため、事業所としての運営を考慮しながら対応を検討する必要があります。
これらの点に注意しつつ、小児訪問看護の提供体制を整えることが、事業運営の成功へのカギです。
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まとめ
小児訪問看護のサービス内容や対象疾患、利用ニーズの背景、小児訪問看護を導入するメリットや注意点などについて解説してきました。
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